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Trulli トルッリ(トゥルーリ)(伊)
概要
①伊trullo「トルッロ(プッリャ地方に見られる円錐型の屋根の家)」に由来。
②ラテン語の男名Petrusの指小形ペトル(ッ)ルス(Petrul(l)us)の頭音消失形に由来か。
③伊≪トスカーナ方言≫trullo「馬鹿な、愚かな」に由来。
詳細
Petrus Trullus(1177年Imola(エミーリア=ロマーニャ州))1
Raimundus Truglus(1268年Bologna(エミーリア=ロマーニャ州))2
Joannes Trullus pictor(1473年Ferrara(エミーリア=ロマーニャ州))=Joanis Trully(1481年、同地)=Mag. Johanes Trullus pictor fil. q. Mag. Antonii pictoris(1485年、同地)=Maestro Giovanni Bianchini alias detto Trullo, pittore, figlio del fu M. Antonio cittadino ferrarese(1485年、同地)=Johanis Bianchini alias de Trullis pictoris(1503年、同地)=M. Gio. Trulli alias dei Bianchini(年代不明、同地)3

イタリアのF1ドライバー、ヤルノ・トルッリ(トゥルーリ)(Jarno Trulli:1974.7.13 Pescara(アブルッツォ州)~)の姓。彼の出身地である アブルッツォ州よりも、その西隣のラツィオ州に集住する特徴的な姓。姓の古い記録は、上掲の通りどの様な理由か北部、特にエミーリア= ロマーニャ州に多い。現在はこの地には殆ど分布していないにも関わらずである。恐らく、分布の面から考えると、F1ドライバーのトゥルーリの 姓は②か③に由来している可能性が高い。
①ニックネーム姓。ミネルヴィーニ説。伊trullo「トルッロ(プッリャ地方に見られる円錐型の屋根の家)」に由来する。トルッロは、平たい矩型に 切り出した石灰岩を、階段状に敷き並べて覆った円錐状の屋根を持ち、側面の壁は石灰で塗られた家屋で、世界遺産にも登録されている。特に、 プッリャ州バーリ県のロコロトンド(Locorotondo)やアルベロベッロ(Alberobello)、ターラント県のマルティナ=フランカ(Martina Franca)、 ブリンディジ県のチステルニーノ(Cisternino)といった村に特徴的な建造物である。苗字となった経緯はミネルヴィーニにも説明がなく、 憶測になるが、その様な家屋の住人を指した渾名に因むものかもしれない。
[Minervini(2005)p.493]
②父称姓。私の説。男名ピエトロ(Pietro)のラテン語形Petrus(←ギpétros「石、岩」)の指小形ペトル(ッ)ルス(Petrul(l)us)の頭音消失形*Trullusに 由来する可能性もあるのではないかと思う(但し、男名としての*Trullusの使用例は未確認)。Petrul(l)usの個人名としての用例を以下に挙げる。
Petrulus massarius(786年Lucca(トスカーナ州))4
Petrullus dictus Bugione(1376年Ancona(マルケ州))5
Petrullus de Neapoli(1444年Napoli)6

③ニックネーム姓。これも私の説。伊≪トスカーナ方言≫trullo「馬鹿な、愚かな」に由来する。トスカーナ州で13世紀にTrullusという人名の記録があり 7、この人名の語源と考えられる。trullo「馬鹿な」の語源は明らかでないが、伊citrullo「単純な、愚かな」、又はその トスカーナ方言における第一音節の弱化形strullo「馬鹿な、間抜けな」の頭音消失形由来説8, 9、ノルド語tröll「粗野な」と 関係付ける説8, 10がある。前者の説の方が多くの語源本に採用されており、有力視されているようだ。

伊citrullo「単純な、愚かな」は、本来はカボチャを意味した単語(cf.伊citriolo「キュウリ」)で、更に遡ると伊cedro「シトロン(の木・実)」の指小形に 由来する9(cf.シトロエン(Citroën))。シトロン(学名Citrus medica)はミカン科ミカン属の植物で、レモンの近縁種だが、 実はレモンより大きい。カボチャへの転用は、実の形と色が似ているためである。「カボチャ」→「馬鹿者」の比喩表現による転義は、殆ど死語だが 日本語の「どでカボチャ」と平行した現象である。
◆伊trullo「トルッロ」←中ギtroûllos「丸屋根」←ラtrulla「柄杓、杓子」(指小形)←trua「攪拌用大匙、杓子」←(?)PIE*tru-←*tur-(ゼロ階梯)←*twer- 「回る、渦巻く」(ギotrúnein「駆り立てる」,古高独dwiril「泡だて器、攪拌器、かき混ぜ棒」,サンスクリットturáti≪三・単・現≫「急ぐ」,アヴェスタturaga- 「馬」)11。英storm「嵐」,stir「かき回す」も同根とされるが、この語根はWatkins(2000)に採録されていない(恐らく、形の 上でイレギュラーな対応が多い為、採用しなかったのだろう)。ゼロ階梯形*tur-から*tru-の変化は音位転換と説明するしかないだろう。
1 Francesco Antonio Zaccaria "Episcoporum Forocorneliensium series. vol.1"(1820)p.147
2 Università di Bologna. Istituto per la storia "Chartularium Studii bononiensis: Documenti per la storia
3 Luigi Napoleone Cittadella "Notizie relative a Ferrara per la maggior parte inedite ricavate da documenti ed illustrate."(1864)p.574-575
4 Domenico Bertini "Dissertazioni sopra la storia ecclesiastica lucchese. vol.4 part.1"(1818)p.155
5 Università di Genova. Istituto di medievistica "Miscellanea di studi storici. vol.1"(1969)p.194
6 Regia Cancelleria "Fonti aragonesi, a cura degli archivisti napoletani."p.98
7 Minervini(2005)p.493
8 Caix(1878)p.169、http://www.etimo.it/?term=trullo
9 Zambaldi(1889)p.272、Pianigiani vol.2(1907)p.1378、p.1480
10 Pianigiani vol.2(1907)p.1480
11 Pokorny(1959)p.1100-1101、Walde(1938-56)p.793-794

執筆記録:
2012年1月21日  初稿アップ
PIE語根Tru-ll-i:①1.(?)*twer-「回る、渦巻く」;2.*-lo- 指小辞;3.*-(o)i 強意・現在・複数を表す語尾
②1.語根不詳;2.*-lo- 指小辞;3.*-(o)i 強意・現在・複数を表す語尾
③1.語根不詳;2.*-lo- 指小辞;3.*-(o)i 強意・現在・複数を表す語尾

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