Pertolt de Swinstige(1140年頃)1 Meinhart de Swinsteie(1185-92年)1 Dietricus de Suvinstige/Hainricus de Swinstic(1196-1216年)1, 2 Kasperl Sweinsteiger(1396年)3 Hartman Sweinsteiger(1396年ティロル)4
地名姓、居住地姓。オーバーバイエルンのミースバッハ(Miesbach)郡、ローゼンハイム郡に多い姓。特に、ミースバッハ郡では
ミースバッハ、ローゼンハイム郡ではオーバーアウドルフ、ザーマーベルク、ヌスドルフ(Nußdorf a. Inn)、ノイボイレン
(Neubeuren)に多い。中高独swīnstīge「豚小屋、豚舎」5を語源としており、「豚舎近くの住人」を
意味するか、同源の地名に由来する姓である。姓の分布から見て、以下の全ての地名から各々発生したと見られる。
●バイエルン州オーバーバイエルン行政区域、ローゼンハイム(Rosenheim)郡オーバーアウドルフ(Oberaudorf)村の
Schweinsteig Swinstic(1180年)6 Sweinsteig(1280年)6
●バイエルン州オーバーバイエルン行政区域、ローゼンハイム郡バーベンスハム(Babensham)村ティートルモース(Titlmoos
)のSchweinsteig
●バイエルン州オーバーバイエルン行政区域、ローゼンハイム郡ザーマーベルク(Samerberg)村のSchweinsteig
●バイエルン州オーバーバイエルン行政区域、ローゼンハイム郡ブラネンブルク(Brannenburg)村のSchweinsteig
小地名のため、古形を確認できない。フィンスターヴァルダー(Karl Finsterwalder)によれば、オーストリアのティロル州の
グリース村(Gries am Brenner)のリッテン(Ritten)に1406年にSchweinsteigという地名が確認されており、イタリア北部の
トレンティーノ=アルト・アディジェ州ボルツァーノ自治県サン=マルティノ(San Martino in Passiria:独名ザンクト=
マルティーン(St. Martin in Passeier))に有る地名ロカリタ・パッソ(Localita Passo)のドイツ語名シュヴァインシュテーク
(Schweinsteg)の古名Swinstige(1118年)を挙げ、これらを発祥元とも見ている6。
[Gottschald(1982)p.452,p.472,Finsterwalder(1978)p.483]
◆中高独swīnstīge←古高独swīnstīga←swīn「豚」(←PIE*suə-īno-←*sū-「豚」)+stīga「家畜小屋、(夜間家畜を収容する)
柵囲い、(移動可能な)牧柵、豚小屋」←ゲルマン*stijōn(ō語幹女性名詞)「家畜小屋、柵囲い」(古英stiġ「畜舎、豚小屋、広間」
(>英sty「豚小屋」),古ザクセンstīga「豚小屋」,中オランダswijnstije「豚小屋」,古ノルドstīa「(動物を入れる)柵囲い」(cf.
古ノルドsvinsti「豚小屋」))←?7。語源不明。ケーブラーは英stone,独Stein「石」と関係付けて、
PIE語根*stāi-,*stī-「圧縮する、押す、繕う、凝固する、滞る」に遡らせ(一般的には英stoneは*stāi-,*stei-「石」を語根に
立てる)、ゲルマン*stijōnに「雑踏、家畜小屋、柵囲い」の意を想定している。恐らく、「圧縮」→「収集」→「群れ」→「(動物の
群れを収容する)柵囲い」の様な意味発達を設定しているのかもしれないが、語形・語義の変遷にかなり無理があるように思える。
この語は英steward「執事」(原義「家の番人」)の第一要素にも現れている。尚、独Steig「小道」は全くの別語源の単語である。
1 Hausner et Schuster(1989)p.1104 2 "Fontes rerum Austriacarum: Diplomataria et acta."vol.4(1851)p.157 3 Alfred Hoffmann, Herbert Knittler "Wirtschafts- und sozialhistorische Beiträge"
(1979)p.71 4 "Veröffentlichungen des Tiroler Landesmuseums Ferdinandeum"vol.31(1951)p.331 5 Lexer vol.2(1876)sp.1380 6 Finsterwalder(1978)p.483 7 英語語源辞典p.1391,p.1368、Watkins(2000)p.87、Köbler idgW S項p.195、
Köbler ahdW S項p.288-289, p.221
執筆記録:
2011年3月29日 初稿アップ