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Scharnhorst シャルンホルスト(独)
概要
中低独scharn「(特に馬や牛の)糞」+中低独horst「低地の藪」より構成された同名の地名に由来し、「糞藪、肥藪」の意。
詳細
Detert Schernhorst(1555年Suttorf(ニーダーザクセン州))1

地名姓。ニーダーザクセン州中部に大変多い姓。プロイセン王国の軍人ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルスト(Gerhard Johann David von Scharnhorst:1755.11.12 Bordenau(ニーダーザクセン州中西部Neustadt am Rübenberge市内)~1813.6.28 Praha(チェコ))の姓。彼も、 ご多分に漏れず、苗字の集住地の出身である。ゲルハルトの祖父はゲルハルト・ユルゲン・シャルンホルストと言い、1680年に同じくボルデナウで 誕生した。祖父の姓はSchernhorst、Scherenhorstとも、ファーストネームは短縮形のGercke、Gerdでも記録に現れている1。 更に遡ると、1555年にズットルフ(Suttorf)2の農場所有者として記録に残るDetert Schernhorst 1という人物に辿り着くらしい。彼は使用人を一人雇用していた事が判っている。この姓は以下に列挙する同名の3ヶ所 ある地名に由来するが、軍人ゲルハルトの姓の場合は場所的に最初に掲載するノイシュタット・アム・リューベンベルゲ市のScharnhorstに由来して いよう。

●Scharnhorst(ニーダーザクセン州/ハノーファー地区/ノイシュタット・アム・リューベンベルゲ(Neustadt am Rübenberge)市/バッセ(Basse)区)
Scarnehorst(1254/1312年)3
Scherenhorst(1255年)3
Scarnhorst(1302/1333年)3
uff dem Schernhorster Velde(1543年)3
Scharnhorst(1588年)3

●Scharnhorst(ニーダーザクセン州/ツェレ(Celle)郡/エッシェーデ(Eschede)行政共同体/シャルンホルスト村)
Scarnhorst/Scharnhorst(1235年)4
Scerenhorst(1248年)4
Schern(e)horst(1330/1360年)4
Scharnhorst(1368年)4
Scharenhorst(1377年)4

●Scharnhorst(ニーダーザクセン州/フェーアデン(Verden)郡/フェーアデン市)
Scharrenhorst(1313年)5

いずれも中低独scharn「(特に馬や牛の)糞、泥、汚物、糞尿」5, 6+中低独horst,hurst「低地の藪、森の中の茂み、不毛の地 、未開墾地」7より成り立つ。即ち、「糞藪、肥藪、泥藪」を原義とする。因みに第一要素は、糞尿趣味の「スカトロ」と 語源上関係が有る。

一方、フェルステマン(Ernst Förstemann)は新低独schare「カササギ(Elster)」と関係付ける説を挙げているらしいが5 (この解釈はゴットシャルトも踏襲している8)、この単語はリュッベン(August Lübben)の中期低地ドイツ語辞典に見えず、 古い使用例が確認出来ないので、受け入れがたい。又、男子名スカロ(*Scaro)9の属格形に由来するとの説も有る 10。この男名は文証されていないが、擬ラテン語形スカリウス(Scarius)9の形で用例があり、 また指小辞が付随したスケリロ(Scherilo)9や、二要素複合名のスカラムント(Scaramunt)9と いった男名が記録に有り、*Scaroも実在した事は疑いない。この名は、古高独scara,skara「鋤先、群衆」11(>独Schar)、 或いは古高独skar「鋤先、刃、鍬(クワ)」12を弱変化男性名詞に改変して生み出されている。然しながら、-horst地名は 前半要素に人名をとる事は殆ど無いため13、人名由来説は極めて疑わしい。

尚、ノルトライン=ヴェストファーレン州/アルンスベルク(Arnsberg)行政区域ドルトムント市ドルトムント=シャルンホルスト区の地名アルト= シャルンホルスト(Alt-Scharnhorst)、及びシャルンホルスト=オスト(S.-Ost)は、かつて当地に存在した上記プロイセン軍人ゲルハルト・フォン・ シャルンホルストにあやかって1871年に名付けられた、シャルンホルスト炭鉱の名に由来しており14、姓の発祥とは 無関係。
[Gottschald(1982)p.259,Kohlheim(2000)p.570,Bahlow(2002)p.436,Naumann(2007)p.307,Naumann et Hellfritzsch(1989)p.255,Kunze(1998)p.101, Brechenmacher(1928)p.186,ONC(2002)p.549]
◆中低独scharn「(特に馬や牛の)糞」←古ザクセン*scarn←ゲルマン*skarnam(a語幹中性名詞)「糞、肥料」(古英scearn「肥、糞、汚物」,古フリジア skern「糞、汚物」,古高独skarno,scarno「ドクニンジン」,古ノルドskarn「糞、汚物」:cf.古ザクセンskerning「ドクニンジン」)←PIE*skor-no-(o階梯+形容詞・名詞形成接尾辞) ←*sker-「大便、糞、汚物」(ギskôr(語幹skat-)「大便」(cf.日本語「スカトロ」),ラovicerda「羊の糞」,中アイルランドsceirdim≪1・単・現≫「つばを吐く」, リトアニアšarwai≪複数形≫「月経」,露sór「糞、汚物」,アヴェスタsairya-「肥料、大便、汚物」,ヒッタイトšakkar(属格šaknaš)「糞」) 15。古ザクセン*scarnは未文証(再建形はマルピコスによる)。 ヒッタイト語やギリシア語の対応語の曲用から判断される通り、元は-r/n-異語幹曲用(heteroclitica)の中性名詞である。印欧語の 最も由緒正しい「大便」を表す本来語。
1 http://www.bordenau.de/Vereine/Scharnhorst/genealogie.pdf
2 やはり、ノイシュタット・アム・リューベンベルゲ市内の地名。
3 NSOB vol.1(1998)p.390
4 http://www.eschede.de/eschede-von-a-z/scharnhorst.html
5 Udolph(1994)p.396
6 Lübben(1888)p.320
7 ibid. p.149
8 Gottschald(1982)p.259
9 Förstemann(1966)sp.1077-1078
10 NSOB vol.1(1998)p.393
11 Köbler ahdW S項p.24、p.80
12 12:Köbler ahdW S項p.80
13 今の所私が確認している-horst地名で、前半に人名を採っている可能性があるのはノルトライン=ヴェストファーレン州 ビーレフェルト(Bielefeld)郡の地名イッセルホルスト(Isselhorst)ぐらい。地名の初出はGislahurst/Iselhorst(1050年) (Oesterley(1883)p.323)で、男名Gisiloに由来している様に見える。ただ、属格語尾-enが現れていない点からして、かなり疑わしい。
14 http://de.wikipedia.org/wiki/Zeche_Scharnhorst
15 英語語源辞典p.1226、Watkins(2000)p.78、Pokorny(1959)p.947-948、Buck(1949)p.276、Köbler idgW S項p.106-107

執筆記録:
2012年2月6日  初稿アップ
PIE語根Schar-n-hor-st:1.*sker-4「大便」;2.*-no- 形容詞・名詞形成接尾辞;3.*kert-「回す、 絡み合わせる」;4.*-sti- 接尾辞

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