Jacob fils de Salomon Sarfati(1386年Avignon(仏ヴォクリューズ県))
1
Jacob ben Leone Sarfati(1490年Mantova(伊ロンバルディーア州))
2
Joseph Sarfati de Rome(1527年没Hamburg(独))
3
Abraham de Isaac Sarfaty(1703年Hamburg)
4
Angelo Sarfati(1789年Livorno(伊トスカーナ州))
5
ニックネーム姓。セファルディム系。米国のプロ野球選手(投手)デニス・スコット・サファテ(Dennis Scott Sarfate:1981.4.9 New York~)の姓。
本来の語形はSarfatiで、これが英語化したものと思われる。ヘブライtsarfát(צָרְפַת)「フランス」
6の
出身形容詞形(ニスバ(nisbah):語末に接尾辞-īを接続して形成される)に由来し、原義は「フランス出身者」である。古くはフランスや
イタリア等で見られた姓で、Sarfatti、Sarfadi、Zarfati、Serfaty等多くの異綴が存在した。現在のヨーロッパでは殆ど見られない。
この「フランス」を意味する単語は、ヘブライTsarĕpháth(צָֽרְפַת)「ツァレファテ、ザレパテ(旧約聖書に登場する地名)」
7, 8を語源とする。この地名は、現在のレバノン南部、南レバノン県サイダ(Saida)区の都市サラファンド
(Sarafand(الصرفند))に相当するとされる
9。旧約聖書のオバディヤ(Obadiah)書(1:20)では地中海東岸に存在した
フェニキア人の都市として言及されている。旧約聖書の他の巻では、列王記上巻(17:9~10)にも見える。ギリシア語ではサレプタ
(Sárepta、Sareptá、Sárephta)又はサレプトーン(Sáreptōn)等の形で、ウルガータ聖書ではサレプタ(Sarepta)の形で現れる。プリニウスの『博物誌』(西暦77-79年頃)
第五巻76節にも言及がある。
"inde
Sarepta et Ornithon oppida et Sidon, ..."
10
『Oxford Names Companion』によれば、ギリシア語のHesperides「西ノ島(Western Islands)」
の影響により、この語はユダヤ人たちによって最初フランスと結び付けて考えられ、後に10世紀以降フランスを含むイベリア半島を
指すと解釈され、更に最終的に14世紀以降西ヨーロッパ全域を示す様になったという
11, 12。又トスティ
(Jean Tosti)によると、フランスではこの名前は父称として13世紀以降の使用例が確認されているとのこと
13。
従って、ヨーロッパではこの姓は「フランス出身者」だけではなく、「イベリア半島出身者、スペイン出身者」という様な意味合いで生じた
とも考えられる。後裔の現代ヘブライ語tsarfát(צָרְפַת)は、国名としての「フランス」の用法に限定されている
14。
旧約聖書の地名ツァレファテ自体の語源はドイツの神学者ゲゼニウス(Wilhelm Gesenius:1786-1842)によって、ヘブライ語の動詞tsaraph(צָרַף)
「金属を溶解する、精錬する(to smelt, refine)」
7, 15の派生語で、「金属精錬所(refinery, Schmelzhütte)」
7, 8, 16を原義とする仮説が提唱されている
7。語末の-thの由来は良く判ら
ない。これ以外には他の説は出ていないらしい。
[Guggenheimer(1992)p.659,ONC(2002)p.546,Tosti(1997~)s2項]
◆ヘブライtsaraph(צָרַף)「金属を溶解する」←セム*
-r-p「焼く、金属を精錬する、金属を溶解する
;銀」(アッカド
arpu「精錬された;銀」,
arāpu「精錬する」)
17。印欧諸語の一部(ゲルマン、スラヴ、バルトの3語派)で使用されている系統不明の「銀」を意味する語
(英silver,露serebró,リトアニアsidâbras)との関係が指摘されている。cf.シルヴァーベルヒ(Silverberg)
1 Gilbert Dahan "L'expulsion des juifs de France, 1394."(2004)p.126
2 Shlomo Simonsohn "History of the Jews in the Duchy of Mantua."(1977)p.256
3 Michael Studemund-Halévy "Die Sefarden in Hamburg. Zur Geschichte einer Minderheit. vol.1"(1994)p.310
4 Michael Studemund-Halévy "Die Sefarden in Hamburg. Zur Geschichte einer Minderheit. vol.2"(1997)p.570
5 J. M. Haddey "Le livre d'or des Israélites algériens."(1872)p.80
6 Waldstein(1939)p.194、http://www.makorehebrew.com/word/448047/%D7%A6%D6%B8%D7%A8%D6%B0%D7%A4%D6%B7%D7%AA
7 Gesenius(1850)p.906
8 http://www.blueletterbible.org/lang/lexicon/Lexicon.cfm?Strongs=H6886&t=KJV
9 http://en.wikipedia.org/wiki/Sarepta
10 http://la.wikisource.org/wiki/Naturalis_Historia/Liber_V#.5B76.5D
11 ONC(2002)p.546
12 英Wikipediaでは(上掲脚注9参照)、この地名がフランスに転用された理由として、要出典のタグが貼ら
れた興味深い別説が載っている。それによると、地名の子音群ts-r-fを逆から読むとf-r-ts、即ちFranceに通ずるからとしている。
13 http://jeantosti.com/noms/s2.htm
14 旧約聖書の地名ツァレファテと現代のフランスの国名とは、ヘブライ文字では全く同じ綴りで表現され
ている(母音を表す補助記号も含む)。所が、二文字目の"רְ"の母音補助記号(ニクード)の処理の仕方が前者と後者では異なる。このrを表す字母に
付されている補助記号(字母の下に二つ縦に並んでいる小さな点)はシュヴァーと呼ばれる曖昧母音を表す。ヘブライ語のシュヴァーは
"e"で転写される場合と、転写に反映しない(つまりゼロの)場合があり、上記の転写表記の差はこれを反映しているものと思われる。
然し、どの様な条件で決まっているのか、私自身がヘブライ語に詳しく無いので良く判らない。
15 http://www.blueletterbible.org/lang/lexicon/Lexicon.cfm?Strongs=H6884&t=KJV
16 http://www.blueletterbible.org/lang/lexicon/lexicon.cfm?Strongs=G4558&t=KJV
17 http://web.archive.org/web/20081014044414/http://www.bartleby.com/61/0/S0410000.html
執筆記録:
2012年5月27日 初稿アップ