Gotthard Rockenfeller(1590年Neuwied(ラインラント=プファルツ州))
1
Hans Jurgen Rokenvelder(1762年Amsterdam(オランダ))
2
地名姓。米国の実業家で石油王とも言われるジョン・ロックフェラー(John Davison Rockefeller, Sr:1839.7.8 Richford(ニューヨーク州)~
1937.5.23 Ormond Beach(フロリダ州))の姓は、もともとは英語ではなくドイツ語の苗字ロッケンフェラー(
Rockenfeller)の英語化形。
独姓Rockenfellerはドイツ西部のラインラント=プファルツ州北部のノイヴィート(Neuwied)郡とマイエン・コブレンツ(Mayen-Koblenz)郡に
集住する地域特徴の強い名前。彼の先祖は
ヨーハン・ペーター・ロッケンフェラー(Johann Peter Rockenfeller)といい、1723年に渡米した。ヨーハン・ペーターは、他でもない、
ノイヴィート郡のゼーゲンドルフ(Segendorf)という村で1710年に生まれている。ドイツのレーサー、
ミケ・ロッケンフェラー
(Mike Rockenfeller)も1983年にノイヴィート市の生誕。
Rockenfeller姓はノイヴィート郡の中心都市であるノイヴィート市の北西10㎞、ヨーハン・ペーターの出生地ゼーゲンドルフの西北西6㎞に
位置する小地名
ロッケンフェルト(Rockenfeld)に由来している。地名の古形は以下の通り。
excepta villa de
Rukenvelt(1285年)
3
hinder Hamerstein by
Rockinvelt(1362年)
4
zu
Rockenvelt(1366年)
5
bys zu
Rockenfelt(1410年)
6
語源は明らかでないが、以下の三つの説が考えられる。
①中高独rocke,rogge「ライ麦」
7(>独Roggen「ライ麦」:英rye「ライ麦」と同語源)の形容詞
中高独ruckīn,rockīn,ruggīn,rückīn「ライ麦の」
8+中高独vëlt「野、畑」
9(>独Feld:英field「野」と同語源)より構成され、「ライ麦畑」を意味する
10, 11。最も
人口に膾炙した説。
②「山の尾根にある畑(Feld auf dem (Berg)-Rücken)」を意味する説
12。第一要素を中高独rück(e),ruck(e)「背中、尾根」
13(>独Rücken「背中、尾根」:英ridge「背中」と同語源)に由来するとする解釈。
③「Ruccko(人名)の畑」を意味する(私、マルピコスの提案)。男名ルッコ(Ruccko:1097年Osnabrück)
14は古高独rohōn「戦で
雄叫びをあげる」
15、或いは古高独ruoh「熟慮、気配り」
15を第一要素にとる男名(例:
Rohfrid
16, Ruochere
16, Rochold
16, Rocolf
16等)の短縮名。或いは古高独*hruod「誉れ」を第一要素に持つ男名の短縮形としてもあり得る形である。
いずれも十分に有り得る解釈の為、どれか一つに断定するのは危険・困難。この地名に-er「~の人」という接尾辞が接続して派生した。
-ld-→-ll-のドイツで頻繁に見られる同化現象(英assimilation)が起きている。この音韻変化を被っているドイツ姓に
ヴァイデンフェラー(Weidenfeller)、
オレンブルク(Ollenburg)、
キルマー(Kilmer②)等が有る。
[ノイヴィートやゼーゲンドルフ、ロッケンフェルトの位置関係が分かる地図。掲載範囲は11㎞四方]
[Gottschald(1982)p.411, Bahlow(2002)p.417, Heintze(1933)p.191, ONC(2002)p.528]
◆中高独rocke,rogge「ライ麦」←古高独roggo「ライ麦」←ゲルマン*ruʒōn(n語幹男性名詞)「ライ麦」(古英ryġe「ライ麦」(>英rye)(<ゲルマン*ruʒiz),古フリジアrogga「ライ麦」
,蘭rogge「ライ麦」,古ザクセンroggo,rokko「ライ麦」,古ノルドrugr「ライ麦」(<ゲルマン*ruʒiz))←PIE*rughyo-「ライ麦」(古露rŭzĭ「ライ麦」,
古プロシアrug(g)is「ライ麦」)
17。
英語とノルド語の語形からi語幹によるゲルマン*ruʒizが想定され、この形の方が古形と見られる。実際、上掲のようにバルト語派と
スラヴ語派の対応は祖形*rugisが想定され、最近有力視されているゲルマン語派とバルト=スラヴ語派の親近性を語彙の面から
支持する好例になると思う。ポコルニー等ではPIE語根を*wrughyo-に再建し、ギbríza「ライ麦」(トラキア語からの借用とされる)を対応に含ませるが、ゲルマン語との
音韻対応に問題が生じるため(語頭のPIE*wr-はゲルマン語でもそのまま保存される)、有り得ないと見た方が無難だろう。従って確実な対応は
ゲルマン、バルト、スラヴの3語派だけに限られ、非印欧語からの借用、或いはゲルマン=バルト=スラヴ共通祖語内で生じた新規派生語に由来する
可能性も否めない。また、意味と形態の面から「米」を意味する語群(英rice,ギóruzon,óruza,サンスクリットvrīhí,古ペルシアbrizi,パシュトーvrižē)
18とも無視出来ない程似ており、何らかの関係が有るのではないかと思う(マルピコスの勝手な考え)。
◆古高独rohōn「戦で雄叫びをあげる」(8世紀末初出)←ゲルマン*ruχ-「吠える、喉をぜいぜい鳴らす」←PIE*reuk-(拡張形)←*reu-
「(動物が)大声で鳴く」(ラrūgīre「吠える」,中アイルランドrucht「咆哮」,リトアニアrūkti「吠える、大声で鳴く」,古教会スラヴrykati「大声で鳴く」)
15, 19。
1 Ann Bond "John D. Rockefeller."(2014)
2 https://www.openarch.nl/show.php?archive=ghn&identifier=f5cb22dc-ec66-4dd7-9519-a38772384c29&lang=de
3 Emil freiherr von Hammerstein-Gesmold "Urkunden und Regesten zur Geschichte der Burggrafen und Freiherren von Hammerstein."(1891)p.72
4 ibid. p.252
5 ibid. p.258
6 ibid. p.350
7 Lexer vol.2(1876)sp.480
8 Lexer vol.3(1878)sp.525
9 Lexer vol.3(1878)sp.57
10 ONC(2002)p.528
11 辻原康夫『人名の世界史』(2005)p.57
12 http://bad-hoenningen.de/index2.php?nid=563&p1=389&p2=562
13 Lexer vol.2(1876)sp.521
14 Förstemann(1966)sp.712
15 http://www.koeblergerhard.de/ahd/ahd_r.html
16 Förstemann(1966)sp.714
17 英語語源辞典p.1203、Pokorny(1959)p.1183、Watkins(2000)p.102、Buck(1949)p.517、Černych(1993)vol.2 p.120、
http://en.wiktionary.org/wiki/rugys#Lithuanian、http://www.koeblergerhard.de/germ/germ_r.html
18 英語語源辞典p.1186、Buck(1949)p.519、http://en.wiktionary.org/wiki/rice
19 Pokorny(1959)pp.867f.、Watkins(2000)p.71
更新履歴:
2015年6月2日 初稿アップ