Poklónskij/Poklónskaja ポクロンスキー/ポクロンスカヤ(露)(露Покло́нский/Покло́нская)
概要
露poklón「お辞儀、会釈」に形容詞形成接尾辞-skijが接続して生じた神学校生徒が用いだした姓。
詳細
作為的苗字。ウクライナ出身のロシアの検察官ナタリア・ヴラディミロヴナ・ポクロンスカヤ(ナターリヤ・ヴラディーミラヴナ・パクローンスカヤ)(Natál'ja Vladímirovna Poklónskaja(露Ната́лья Влади́мировна Покло́нская):1980.3.18 Mixájlivka(ルハーンシク州)~)の姓。 ウクライナ語形はナターリヤ・ヴォロドゥィームィリヴナ・ポクローンシカ(Natálija Volodýmyrivna Poklóns'ka(Ната́лія Володи́мирівна Покло́нська))。

姓は露poklón(покло́н)「お辞儀、会釈」に由来する(-skijは形容詞形成接尾辞)。この姓は作為的な起源を持つ珍しいタイプの姓である。 作為的な名前は元々は私生児や孤児、捨て子といった名前を持たない子供の個人特定の為に使われていた。然し後代になると、この様な名前が神学校生徒の 間でも使われるようになっていく。当姓はその神学校生の命名を起源に持つと考えられている。神学校生の間で用いられたこうした作為的な名前の起源には パターンがあり、その源を列挙した決まり文句が存在した。曰く、「教会による、花による、石による、家畜による、そして彼の猊下の如く」。 ポクロンスキー姓は最初に挙げられている教会に関連する名である。

キリスト教では神に対して畏敬の念を表わす時、お辞儀をする。また、キリスト教会では教理問答受講者1がお祈りする時や、懺悔時、 悪霊に取りつかれた時等に地面に向けて頭を傾けるお辞儀をする。自身の身分によっては片膝を立て、もう片方の膝を地面に付ける跪拝(キハイ:露 коленопреклонение,英genuflection)を行う風習が有るが、これは元来ユダヤ教のものであった。旧約聖書の『列王記』8章でソロモン神殿を 建造したソロモン王が、そこの祭壇の前で祈りと願いを神に捧げる場面が有るが、それを終えて祭壇の前から立ち上がる箇所で跪拝の言及が有る(『列王記』8:54 2)。ダニエルもバビロン捕囚時代に跪拝をしている。跪拝はイエス・キリストによって聖別され、キリスト教の儀式に取り入れられた。 ギリシア正教では、現在跪拝は先備聖体礼儀(センビセイタイレイギ)3という儀式で常用されている。

この様に「お辞儀」はキリスト教の祭事では欠かせないものである為、神学校生の姓として取り入れられた。聖職者は自分達の子供に立派な教育を施すことが 可能であった為、18世紀末の神学校生の姓は政治家や学者、作家、芸術家といった知識層を代表する人物の間で度々見受けられる。英lean「傾ける」と同根の 可能性が指摘されている。
[http://www.ufolog.ru/names/]
◆露poklón「お辞儀」←po-(短時間で軽く終わる動作を表す接頭辞)(←po≪前置詞≫「~に沿って」←PIE*po(s)←*apo-「~から離れて」)+klon-「曲げる」 を意味する動詞の語根←kloníti「傾ける、曲げる」←スラヴ*kloniti(ウクライナklonýty「お辞儀する」,ベラルーシkloníc',ブルガリアklonjá「傾ける、曲げる」, セルボ=クロアティアklóniti「遠ざける、傾ける」,スロヴェニアklóniti「守る、遮る」,チェコkloniti「傾ける、折り曲げる」,スロヴァキアklоnit', ポーランド,高地ソルブkɫonić,低地ソルブkɫoniś)←(?)PIE*klei-n-, *kloi-n-, *kli-n-(ギklínein「傾ける、傾く」,ラclīnāre「傾く、曲げる、沈む」, 古英hleonian「傾ける、寄り掛ける」(>英lean),アイルランドclóin「斜めの、不公平な」)←*klei-「傾ける」 (アイルランドclé「左(の)」,露sloj「層」,リトアニアšlaĩtas「坂」,サンスクリットśráyati≪3単現≫「傾ける」)4

上掲の説はドイツの言語学者ファスマー(Max Vasmer)によるが、音韻上の問題を二点抱えている。第一に、語根の語頭に想定される子音kは、露sloj, リトアニアšlaĩtas,サンスクリットśráyati等の対応が示す様に、前寄りのk(k̂で表記される)であり、これを硬口蓋化させたスラヴ語ではkで 現れる筈が無い点。第二に、露sloj等、上掲の他の対応が二重母音*ei(とそのアプラウト形*oi、*i)からの発達で有る事は説明出来るが、スラヴ*klonitiに現れる短母音oには 変化しえない点(o階梯の*kloi-n-は露klen-に発達するのが正則)。然し、これ以外に結び付けられそうな印欧語根も無く、形の類似もある程度あるため、 無下に否定できない所もある。他の印欧語を経由してスラヴ語に借用された可能性もあるけれど、そこら辺の所は不明。

他にも、バルト=スラヴ語には他にリトアニアklãnas「水溜り」,klõnis「谷」,klonė̃「低地」,klànytis「曲げる」,ラトヴィアklans「水溜り」,klanît「曲げる」 (cf.サンスクリットçrānayati「贈る」)、又語頭子音が硬口蓋化している露prislonít'「立てかける」といった語彙が存在し、これらとの関係も取り沙汰されている。 取り敢えずファスマーの説に従う。
1 露оглашённый(英catechumen)。公共要理受講者、求道者、洗礼志願者とも訳される。伝道師によってキリスト教の原理を教えられる 新米のキリスト教改宗者のこと。
2 英語では"When Solomon had finished all these prayers and supplications to the Lord, he rose from before the altar of the Lord, where he had been kneeling with his hands spread out toward heaven."とある(New International Version)。
3 露литургия преждеосвященных даров(英Liturgy of the Presanctified Gifts)。 Wikipedia日本語版に立項されているので、詳しくはそちらを参照のこと。
4 Vasmer(1964~73)vol.2, p.253-254

更新履歴:
2014年4月24日  初稿アップ
PIE語根Po-kló-n-sk-ij: 1.*apo-「離れて」; 2.*klei-「傾ける」; 3.*-n- 詳細不明; 4.*-isk- 形容詞形成接尾辞; 5.*i- 代名詞語幹

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