Pekerman ペケルマン(ユダヤ)
概要
イディッシュbeker(בעקער)「パン屋、パン職人」+イディッシュman(מאַן)「夫、≪接尾辞的用法で≫人」よりなり、「パン屋」の意。
詳細
職業性。イディッシュbeker(בעקער)「パン屋、パン職人」1に由来する渾名Beker、Peker、Pekkerにイディッシュman(מאַן)「夫」 2が後続したもので、「パン屋、パン職人」を現わす姓である。後続のイディッシュmanは苗字を形成する場合、単純に原義の 「人」を現わしている事が多く、Pekerman姓もこの用法に基づく。語頭のB-→P-の変化は、ポーランドpiekarz「パン屋」,ベラルーシ,ウクライナpékar(пеʹкар) 「パン屋」,露pékar'(пеʹкарь)「パン屋」等の影響か混淆によるものだろう。これらのスラヴ語語彙はスラヴ*pekti「焼いて調理する」(←PIE*pekᵂ-「料理する」: cogn.英kitchen, cook, pumpkin)に由来し、語源上全く無関係。

アルゼンチン人のサッカー指導者ホセ・ネストル・ペケルマン(José Néstor Pekerman:1949.9.3 Villa Domínguez(エントレ・リオス州)~)は、その祖父母がウクライナ出身のユダヤ人であった。彼等は19世紀末に、ウクライナ南部で 猛威を振るったユダヤ人迫害運動ポグロムから逃れてアルゼンチンに渡った。ユダヤ系ドイツ人の博愛主義者モーリッツ・フォン・ヒルシュ (Moritz von Hirsch:1831~1896)が支援した、アルゼンチンへのユダヤ人亡命の最初の波の中にペケルマン家の名が見える。その後、先祖は 耕作地を求めて転々とし、後アルゼンチンのエントレ・リオス州の都市ビリャグアイ(Villaguay) 近郊の村ビラ・ドミンゲス(Villa Domínguez)に至った。この村は1880年以降、ヨーロッパから渡ってきたユダヤ人が多く居住する植民地の一つで、この様な 植民地に住むユダヤ人をガウチョ・ユダヤ人(Gaucho Judio)と言う。その息子で、サッカー指導者の父はドミンゲス村の鉄道技師として働いた。
cf.ニッカボッカ(Knickerbocker)、ベッケンバウアー(Beckenbauer)、バハオーフェン(Bachofen)
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◆イディッシュbeker(בעקער)「パン屋、パン職人」←中高独beckäre,becker(>独Bäcker)←古高独beckeri(12世紀初出)←ゲルマン*bakārijaz(ja語幹男性名詞) 「パン職人」(古英bæcere「パン職人」,蘭bakker「パン職人」,古ザクセンbakkāri,bakkėri,bekkėri「パン職人」,古ノルドbakari「パン職人」)←*bak(k)an 「(パン・菓子等を)焼く」(古英bacan,西フリジアbakke,中蘭bak(k)en,古ザクセンbakkan,古高独backan,bahhan,bachan,古ノルドbaka)←PIE*bhōg- 「(パン・菓子・肉を)焼く」(ギphṓgein「肉を焼く」)3
本来は単子音の-k-の形が語源的と見做されるが、ドイツ諸語とフリジア語の重子音-kk-を持つ形の 派生原因は良く解っていない。印欧語根は更にPIE*bhē-「暖める」(cogn.(?)英bath「湯、風呂」)に遡ると考えられるが、上掲の様にゲルマン語以外では ギリシア語とイリュリア語にしか対応が知られていない。尚、Wiktionary英語版bake項にペルシアpokhtan「(パンを)焼く」も同根としているが、これは 既出の*pekᵂ-「料理する」に由来しており4、誤りである。
1 http://en.wiktionary.org/wiki/%D7%91%D7%A2%D7%A7%D7%A2%D7%A8
2 http://en.wiktionary.org/wiki/%D7%9E%D7%90%D6%B7%D7%9F
3 英語語源辞典p.93、Pokorny(1959)p.113、Köbler idgW Bh項、Watkins(2000)p.8
4 PIE*bh→イラン祖語*b、PIE*p→イラン祖語*pが正則。

執筆記録:
2014年7月11日  初稿アップ
PIE語根Pek-er-man: 1.*bhōg-「(パン・菓子・肉を)焼く」;2.語根不詳; 3.*man-¹「人」 又は(?)*men-¹「考える」

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