Palin ペイリン(英、ウェールズ)
概要
①地名姓。「Pælli(人名)の居住地」の意。
②地名姓。「*Pāl(人名)の居住地」の意。
③「Heilyn(人名)の息子」を意味する。
詳細
Gernagode de Paling'(1156-58年サセックス)1
John Palyng(1441年London)1
Richard Palin(1524年)1

①地名姓。イングランド東部ノーフォーク州、ノース・ノーフォーク州自治区シー・ポーリング(Sea Palling)村の名に 由来する。地名の歴史上の綴りの推移は以下の通り。

Pallinga/Palinga(1086年:DB)2
Pallenges(1199/1200年)2
Palling(e)(1202/1209年)2
Pallinges(1209/1224年)2
Paullinges(1224/1230年)2
Pallyng(e)(1286/1305年)2
Pallingg(e)(1302/1346年)2
Pallyngs(1366年)2

原義は「Pælliの居住地」2。ピャーッリ(Pælli)3は男名だが、 その由来は不明。語形から古ノルド語起源の 名前と思われる。候補としては、古ノルドpāll「鋤(スキ)、鍬(クワ)」4、古ノルドpallr「ベンチ、舞台」 4、古英pæll「外套、コート、絹の服、(皇帝・国王・枢機卿が着用する)深紅の衣」 5に由来する渾名起源、又はキリスト教の洗礼名パウロ(英Paul,ラPaulus)の借用の古ノルドPáll 6起源を私は考えたが、どれもこれも胡散臭い。Pælliという名前が古ノルド語であるならば、 そのゲルマン祖語の対応形は*Pǣlj(ōn)、或いは*Pēlj(ōn)を想定できるが、それに対応する他のゲルマン諸語の単語は 確認出来ない。又、語頭にP-が来ている事からゲルマン語の本来語ではなく、別言語からの借用かもしれない。
[Reaney(1995)p.336,苅部(2011)p.212]

②地名姓。イングランド南東部ウェスト・サセックス州、アラン(Arun)州自治区ポーリング(Poling)村の名に由来する。 地名の歴史上の綴りの推移は以下の通り。

Palinga Schittas(953年)7
Paling'(1156-58/1226年)7, 8
Palinges(1199年)7, 8, 9
Palling'(1248年)9
Pallinges(1248年)9
Polynge(1305年)7, 8

原義は「*Pālの居住地」7, 10, 11。エクヴァルによる解釈である。人名パール(*Pāl)はサール(William George Searle)の古英語個人名 辞典に見えず、記録の無い名前。古英pāl「杭」11(>英pole)に由来する渾名起源と想定できる。 中には地名の原義を「杭の人々(Pfahlleute)」13、「杭による人々(people by the pole)」 7とも説明している。この人名はポールズデン(Polesden)というイングランドの地名の第一要素に も見えており7、記録が残っていないだけで実在した名前だったのだろう。
[Reaney(1995)p.336,苅部(2011)p.212]
Goronwy ap Heilyn(1278~81年)14
Heylin ap Madoc ap Heylin(1357年Chester)15
Gronudhy ab Tydyr ab Heilyn(1400年)16
Ken' ap David ap Heilin(1446~47年Nestgogh(恐らくウェールズSychdyn(英Soughton)近郊))17
Gruffydd ab Heylin(1450年)18
Joan Palyne(1551年Enfield(ミドルセックス))19

③父称姓。「Heilyn(人名)の息子」を意味するウェールズAp Heilynに由来する(ウェールズab,ap「息子」20 )。人名は、ウェールズheilyn「召使、給仕人、(食堂・食器・酒貯蔵室を管理する)執事」21に 由来する渾名である。heilyn自体はウェールズhail「量、豊富、贅沢、寛大さ、尽力、奉仕、給仕」 22の派生語。語末は、良く判らないけれども指小辞-yn23かもしれない。 また、ウェールズhailを要素に持つ男子名が多く見られ(例えば、Conhail、Judhail)24、これらの 名前の短縮形がHeilynであった可能性もある(マルピコス説)。後、語頭のAp、或いはAbの母音が脱落しPalinとなった (cf.プリチャード(Prichard))。尚、ウェールズap,abはウェールズmap「息子」の頭音消失形で、マクドナルド(McDonald)などの M(a)c「息子」と同語源である。
[Reaney(1995)p.336,ONC(2002)p.284,苅部(2011)p.212]
◆ウェールズhail「豊富、寛大さ、奉仕」←中ウェールズhael「気前の良い、寛大な」←ケルト*sag(i)lo-,*sag(e)lo- 「気前の良い」(古ブルトンhael,hail「気前の良い」,ゴールDeprosagilos, Sagillus人名)←PIE*segh-elo-(+形容詞形成接尾辞・指小辞) ←*segh-「持つ」(ギhékhein「持つ」,古高独sigu「勝利」,サンスクリットsáhas-「力、勝利」,アヴェスタhazah-「権力、強奪」) 24, 25。ウェールズ語の二重母音-ai-はケルト祖語の*-agi-,*-age-の母音間の[g]が弱化消失し 、前後の母音が隣り合って生じたもの。
1 Reaney(1995)p.336
2 EPNS vol.72(1996)p.119
3 Searle(1969)p.385
4 Köbler anW P項p.1
5 Köbler aeW P項p.1
6 http://www.vikinganswerlady.com
7 Ekwall(1962)p.39
8 Piroth(1979)p.102
9 Arngart(1939)p.77
10 ONC(2002)p.1157
11 Lunds universitet "Lunds universitets årsskrift."(1941)p.78
12 英語語源辞典p.1085
13 Berliner Gesellschaft für das Studium der neueren Sprachen "Archiv für das Studium der neueren Sprachen und Literaturen. vol.150"(1926)p.230
14 Sir John Goronwy Edwards "Calendar of ancient correspondence concerning Wales." (1935)p.xii
15 Great Britain. Public Record Office "Annual Report of the Deputy Keeper of the Public Records."vol.36(1875)p.409
16 Edward Lhuyd "Archaeologia britannica."vol.1(1707)p.256
17 Great Britain. Public Record Office "Annual Report of the Deputy Keeper of the Public Records."vol.37(1876)p.331
18 Richard Llwyd "Beaumaris bay: the shores of the Menai, and the interior of Snowdonia." (1832)p.48
19 http://www.surnamedb.com/Surname/Palin
20 Pughe vol.1(1832)p.1
21 Pughe vol.2(1832)p.220
22 ibd. p.212
23 普通ウェールズ語で名詞の語末に-ynが置かれるのは単数の指標。
24 Daniel R. Davis "Development of Celtic Linguistics."(1850-1900)vol.4 p.119
25 Pokorny(1959)p.888-889、Sims-Williams(2003)p.222-223

更新履歴:
2011年5月29日  初稿アップ
PIE語根①Pal-in:1.語根不詳; 2.*-ko- 形容詞・名詞形成接尾辞
②Pa-l-in: 1.*pag-,*pak-「固定する」; 2.*-slo- 接尾辞; 3.*-ko- 形容詞・名詞形成接尾辞
③P-a-l-in: 1.*maghu-「若者」; 2.*segh-「持つ」; 3.*-lo-指小接尾辞; 4.語根未確認

Copyright(C)2010~ Malpicos, All rights reserved.