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概要
①父称姓で「Fionnlaochの息子」の意。Fionnlaochは「美しき戦士、白き英雄」の意。
②「Leagha(という渾名の人物の)息子」の意。渾名はアイルランド,スコットランド=ゲールleagh「溶ける、溶かす」に由来か。
詳細
Gilaspyh M'Kinley (1493年スコットランド:公証人)1
John M'Ynla (1561年Glenurquhay)2
Malcolm M'Inley (1675年Balliwilling)2
Donald M'Kindlay (1696年Innerchocheill(スコットランドPerth and Kinross州Dunkeld))2
①父称姓。スコットランドのストラスクライド(Strathclyde)州に多い姓であるが、どういう訳か1881年当時の集計で既にイングランド北部の
大都市マンチェスターの衛星都市ストックポート(Stockport)にも集住しており、この時点では同市に最もMcKinley姓が多く分布していた。
異綴のMacKinley姓はスコットランドとイングランドの間ほどにあるノーサンバーランド州やクリーヴランドに多い。
この姓はスコットランド=ゲール語に由来し、この言語での表記はMac Fhionnlaoichと綴り、「マッキンリー」の様に発音される。M(a)cKinleyという
表記は、その英語式綴りによる音転写である。原義は「Fionnlaochの息子」。Fionnlaochという男名はスコットランド=ゲールfionn「白い、美しい、
蒼白な、明るい、誠実な、賢明な、確かな、知られた、小さい」3 ,アイルランドfi(o)nn「白い」4
とスコットランド=ゲール,アイルランドlaoch「英雄、戦士」5 より成り立ち、「美しき戦士、白き英雄」といったほどの意味の名前である。
Fionnlaochという名前が、スコットランド=ゲールmac「息子」に後続した事で緩音化(lenition)が生じ、語頭子音[f]が対応する有声音[v]で発音される様になり、
これが更に弱化して語頭子音が消失した。従って、McKinleyという綴りは完全に発音に倣ったもので、Kinleyの語頭K-はその前にある
スコットランド=ゲールmac「息子」の語末子音[k]の残像に他ならない。
因みに、Fionnlaochというゲール語の男子名は、中世スコットランドの領主の名にも現れている。シェイクスピアの四大悲劇の1つ『マクベス
(Macbeth)』は、スコットランドに実在した王国マリ朝(1040~1058年)の実在の王マクベス(在位:1040~1057年)を題材にしたものだが、
実はマクベスの父親であるマリ(Moray)領主が同じ語源のフィンリー(Findláech)という名前なのである。実際の文献上の記録では、
『アルスター年代記(Annals of Ulster)』にFinnloech m. Ruaidhri, ri Alban (1020年)の語形でみえるそうだ(
Ruaidhriはフィンリーの父親の名でm.はmac「息子」の略、"ri Alban"は「スコットランド王」を意味する(アルビオン(Albion)と同語源))
6 。従って、その息子であるマクベスの名は、中世のスコットランド=ゲール語でMac Bethad mac Findlaích
と綴り、後半に父フィンリーの名前が含まれている。
[MacLysaght(1999)p.183-184,Black(1946)p.530,Harrison(1912-1918)p.253,ONC(2002)p.418]
②ニックネーム姓。アイルランド姓Mac an Leaghaの英式音転写。アイルランドanは定冠詞。肝心の渾名の部分Leaghaの意味は判らない(MacLysaght(1999)
にも語義の記載無し)。語形的に似ているのはアイルランド,スコットランド=ゲールleagh「溶ける、溶かす」8 であるが、安易に関係付けて良いものか
疑問がある。一先ず動詞leaghの語根(又は語幹)に何らかの接尾辞が接続して生じた渾名Leaghaに由来するニックネーム姓とする、私の仮説を
挙げておく。
[MacLysaght(1999)p.183-184,p.3]
◆スコットランド=ゲール,アイルランドlaoch「英雄、戦士」←古アイルランドláech「戦士、(聖職者に対して)俗人」←後ラlāicus「俗人、平信徒」
(英laic「世俗の」,仏lai「俗人の」,ウェールズlleyg「俗人」)←ギlāikós「人々の」(-ikósはPIE*-(i)ko-に遡る形容詞形成接尾辞)←lāós「民」←?
9 。語源不明。つまり、ニコラウス(Nicholaus)の第二要素と同根である。
◆スコットランド=ゲールleagh「溶ける、溶かす」←古アイルランドlegaim,legad←ケルト*leg-e/o-「溶ける」(ウェールズllaith「湿った」(<
ケルト*lexto-(動詞語根に完了分詞・形容詞形成接尾辞*-to-が接続した形)),ブルトンleiz「湿った」(<ケルト*lexto-(同左)))←PIE*leg-「滴る、
滴らせる」(古ノルドleka「水を通す、漏れる」,アルメニアlič「湿った」)10 。確実な対応は左記の通りケルト、ゲルマン、
アルメニアの3語派にしか見出されない。日本語の「情報をリークする」の語源となった英leak「漏れる」は、先述の古ノルドlekaの借用。
1 http://www.4crests.com/mckinley-coat-of-arms.html
2 Black(1946)p.530
3 Armstrong(1825)p.254
4 Buck(1949)p.1054
5 http://en.wiktionary.org/wiki/laoch、Armstrong(1825)p.343
6 http://en.wikipedia.org/wiki/Findl%C3%A1ech_of_Moray
7 http://en.wikipedia.org/wiki/Macbeth,_King_of_Scotland
8 Macleod vol.1(1831)p.362、MacBain(1855-1907)p.225
9 英語語源辞典p.778,p.789、Buck(1949)p.1380f.、http://en.wiktionary.org/wiki/laoch、MacBain(1855-1907)p.223
10 MacBain(1855-1907)p.225、Pokorny(1959)p.657
執筆記録:
2011年11月13日 初稿アップ
PIE語根①McK-in-le-y:1.*maghu-「若者」;2.*weid-「見る」;3.語根未詳;4.*-ko- 形容詞形成接尾辞
②McK-in-ley:1.*maghu-「若者」;2.*sḗm「1」、或いは*só「この」;3.(?)*leg-2 「滴る、滴らせる」
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