Mallarmé マラルメ(仏)
概要
中仏mal armé「装備が悪い」に由来。「並み以下の貧弱な武装の兵士」を表した渾名に由来。
詳細
Girard Malarmé(1339年Château(ジュラ県))1
Katerine, fille de Jehan Malarme(1419年Aubigny(コート=ドール県)2)3
Vuillemin Malarmez(1458年Morteau(ドゥー県))4
Iehan Malarmey(1593年、ルシヨン伯領の貴族の当主)5
Catherine Malerme(1641年Besançon(ドゥー県))6
Anne et Gasparde Malarme(1652年、サオーヌ=エ=ロワール県のどこか)7

ニックネーム姓。フランスの詩人ステファヌ・マラルメ(Stéphane Mallarmé:1842.3.18 Paris~1898.9.9 Vulaines-sur-Seine(セーヌ=エ=マルヌ県))の姓。 かなり珍しい姓で、フランス北端のノール県に特徴的(1966~1990年の統計では全国55件中、同県に33件)。同源異綴の姓に同じ読みのMalarmé (ノール県、ワーズ県、オート=マルヌ県に多い)、Malarmey(稀姓、オーブ県に集住)があり、いずれもフランス北部に特徴的。上掲の様に、 古い史料ではフランシュ=コンテ地方でしか見られない姓であるが、これは15世紀から記録の有るブルゴーニュ伯爵領の貴族マラルメ(Malarmey)家の 縁者だろう。開祖はパンクラス(Pancrace Malarmey)という軍人で、1460年に古いブルゴーニュ伯領の貴族ジャン・ダスエル(Jean d'Asuel)の娘シモンヌ (Simonne d'Asuel)と結婚し、1480年に封土を取り戻したと貴族辞典に見える8(この書き方から推察するにどうやら、ダスエル家は 領土を奪われて零落していた模様)。今は当地に全くと言って良いほど分布してない。貴族の事は私は全然わからないので、これ以上踏み込むのは止めておく。 詩人との関係が有るのか無いのかは未確認。

中仏mal「悪い、悪意のある、有害な(Mauvais, méchant, néfaste)」9+中仏armé(e)「武装した」(中仏armer「武装させる」10の過去分詞) より構成される成句の中仏mal armé「装備が悪い」に由来し、平均より劣悪な武装しか出来なかった兵士に与えられた渾名から生じた。 恐らくは、相続した騎士土地保有権(knight's service)が殆ど無かった為に、武装が貧弱にならざるを得なかった兵士が名乗った場合も有っただろうとも 指摘されている。

この熟語は辞書に掲載されていないが、中世フランス語では使用例が有る。成立年代・作者不詳の『良きジャン・ル・マングル11 閣下の履歴書(Le Livre des faicts du bon messire Jean le Maingre, dit Boucicaut)』12(書名の邦名は私が勝手につけた)という 中世フランス語の伝記に以下の様に有る(第24章,32-35)[直接的にはフランスの言語学者ラランド(Denis Lalande)の校訂版から引用した]13

"Si estoit demouré14 si mal armez que, avec ce que il avoit moult pou15 de gens d'armes, a peine16 avoit il de .XII. a .XIIII. arbalestiers pour galee."(1403年)
「もし、非常に武具装備が悪いままで、しかも重騎兵を(戦力として)殆ど持ち合わせていないならば、ガレー船にはようやく12~14人の弩手を配置出来るのが やっとであろう」

訳すのにかなり時間がかかってしまった・・・。多分、上の訳で大体当たっている筈(間違っていたらご教示ください・・・)。gens d'armesは 「重騎兵(man-at-arms)」、arbalestiersは「弩手」。兎に角、兵装・兵員が不足していて困っている状況なのは確か。他にも中仏mal arméの 用例は有るが、私の能力では訳すのに膨大な時間がかかるので割愛した。

フランスの固有名詞研究家トスティ(Jean Tosti)は、上記とは別に「邪悪な精神(l'âme mauvaise)」を原義とする可能性もあると 指摘している。トスティは後半要素を古仏arme「精神(âme)」とする が、今の所、管見の限りでは古仏arme「精神」の語を確認出来ない。中仏âme「魂、精神」17の異形にarmeという形が有るのかも知れないが、 見付からない。又、既に見た様に中世フランス語ではmal armé「装備が悪い」の用例が見られるので、これに由来すると見るのが適当だろう。 イタリアにも同語源の苗字がかつて存在し(現在廃用)、 Iacobinus Malarmatus strazarolus(1426年Padova(ヴェーネト州))18の用例が見える。

[Morlet(1997)p.652, ONC(2002)p.398]
◆(古)仏armer「武装させる」←ラarmāre「装備する、武装させる(する)」(オック,カタルーニャ,西,葡armar「武装させる(する)」,伊armare「武装させる(する)」, フリウーリarmâ「武装させる」,ルーマニアarma)←arma(o語幹中性名詞複数)「道具、武器、戦争、軍隊、防衛手段」←PIE*ar-mo-(+形容詞形成接尾辞) ←*ar-「ぴったり合う」(ギharmós「継ぎ目、関節」,古英(e)arm「腕」,古教会スラヴramo「肩」,サンスクリットṛtá「秩序、正義、協定」,古ペルシアArtaxšaça アルタクセルクセス(人名),古アルメニアarari「(私は)作る」)19
1 "Histoire de Gigny: au département du jura, de sa noble et royale abbaye."(1843)p.430
2 Aubignyの地名はコート=ドール県に少なくとも3ヵ所見える。 どれなのかは特定できなかった。
3 Michel-Hilaire Clément-Janin "Morimont de Dijon. Bourreaux et suppliciés."(1889)p.24
4 Académie des sciences, belles-lettres et arts de Besançon et de Franche-Comté "Mémoires et documents inédits [in -8ö pour servir à l'histoire de la Franche-Comté. vol.11-13"(1919)p.433
5 M. Loys Gollut "Les mémoires historiques de la République Séquanoise."(1846)p.xv
6 Paul Delsalle "Les Franc-Comtoises à la Renaissance."(2005)p.108
7 "Inventaire sommaire des Archives départementales antérieures à 1790"(1896)p.99
8 François-Alexandre Aubert de La Chesnaye-Desbois "Dictionnaire de la noblesse."(1775)p.411
9 http://www.cnrtl.fr/definition/dmf/mal2?idf=dmfXdXpcYmbi;str=0
10 http://www.cnrtl.fr/definition/dmf/armer?idf=dmfXdXrmXabhad;str=0
11 ジャン・ル・マングルという人物は、ジャン・ル・マングル・ド・ブシコー2世(仏Jean II Le Meingre de Boucicaut,中仏Jehan le Maingre, dit Bouciquaut:1364 Tours(アンドル=エ=ロワール県)~1421.6.25 Yorkshire(英))のことで、フランスの 軍人・元帥。
12 1400~1600年頃成立の作者不詳 (不明だが候補が三名挙がっている)の 『ジャン・ル・マングルの伝記(Livre des faits de Jean le Meingre, dit Boucicaut)』(やはり、書名の邦名は私が勝手につけた)の異本か?。
13 Denis Lalande, Études sur le "Livre des fais du bon messire Jehan le Maingre, dit Bouciquaut, mareschal de France et gouverneur de Jennes" (1983)p.254
14 古仏,中仏demo(u)rerの過去分詞だが、この動詞は多義語(Godefroy(1880-1895)vol.2 p.504)。ゴドフロワの古仏辞典に挙げる語義を以下に列挙する: 「延期する(retarder)」、「遅れる(tarder)」、「滞在する、住む(demeurer, habiter)」、「責任を持つ(se porter garant)」、「~が不足する(manquer de)」、 「~から逃れる(échapper à)」、「苦しみ続ける(rester en souffrance)」、「~を差し控える(s'abstenir)」。現仏demeurer「住む、~のままである」は 、この後裔。現代フランス語ではêtreを助動詞にとって、「~のままである、留まる」という用法が有り、ここで挙げた古い用例も この助動詞を前置している事から、「~のままである、駐屯する、待機する」と言った意味かと思われる。
15 中仏moult pouは「殆ど全く無い」という意味の副詞。前半は古仏mo(u)lt≪形容詞≫「多くの、大きい」≪副詞≫「多く、甚だ」。ここでは副詞の用法で、更に別の副詞を後置して意味を強調する。 中仏pouは中仏peuという副詞の異形で、 「非常にわずか(très faiblement )」(>仏peu「殆ど~ない」)の意。
16 中仏à peine≪副詞≫ 「やっとのことで、辛うじて、殆ど~ない、殆ど」。
17 http://atilf.atilf.fr/scripts/dmfX.exe?LEM=%C2ME;MENU=menu_dmf;AFFICHAGE=2;ISIS=isis_dmf2015.txt;MENU=menu_accueil;OUVRIR_MENU=1 ;OO1=2;s=s080a02b8;LANGUE=FR;XMODE=STELLa;FERMER
18 Antonio Sartori, Giovanni M. Luisetto "Archivio Sartori: documenti di storia e arte francescana. vol.4"(1989)p.79
19 英語語源辞典p.65、Pokorny(1959)p.55、Watkins(2000)p.5、Buck(1949)p.1383、https://en.wiktionary.org/wiki/arma#Romanian

更新履歴:
2016年5月27日  初稿アップ
PIE語根Mall-ar-m-é: 1.*mel-⁵「間違った、悪い」; 2.*ar-¹「ぴったり合う」; 3.*-mo- 形容詞・名詞形成接尾辞; 4.*-ā-³ 動詞形成接尾辞

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