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Maldonado マルドナド(西)
概要
①「粗野な人、無作法者、不細工」を意味する未確認の形容詞*maldonadoに由来する渾名から。
②「不恰好な人、身体に何らかの障害のある人」を意味する渾名Maledolatusに由来。
詳細
Miguel Maldonado(1228年Veruela修道院(サラゴサ県))1
Gallecus, Giraldi Peresii Maldonadi filius(1318年Alcántara(エストレマドゥラ))2
Joannes Maldonatus(1533/1534年Casas de la Reyna(エストレマドゥラ)生まれ:司祭)3
Petrus Maldonadus(1580年)4

ベネズエラ出身のF1レーサー、パストール・マルドナド(Pastor Maldonado:1985.3.9~)の姓。この姓は語源に関して複数の説があるが、 説得力のある二つだけ立項する(他の胡散臭い説は①でまとめて述べる)。スペイン全土に広く見られるが、セビーリャ県等アンダルシア州南部、 バルセロナ県、マドリード県に特に多い。

①ニックネーム姓。ファウレ本に当姓の語源が的確に述べられているので、以下の記事はこれに依拠する。
●リオス・イ・リオス(Ángel de los Ríos y Ríos)が提唱した説
ケルト語の個人名ドナルド(Donald:←ケルト*Dubnovalos「世界+強力な;支配者」)5に父称接頭辞(スコットランド=ゲールmac「息子」)が前置して 生じた、スコットランドに多い苗字マクドナルド(MacDonald)がスペインにもたらされ、カスティーリャ語化したものという。然し、ファウレ(Faure) 等が指摘するように、Maldonado姓が既にスペインで1228年に修道院の古文書に記録を留めている点、MacDonald姓がMaldonado姓にカスティーリャ語化 する経過を証明する文献上の証拠を欠いている点から、有り得る筈の無い意見である。但し、ファウレらの指摘では、スコットランド起源の姓が スペインに帰化しているケースは厳然として見受けられるのも事実であるそうだ。 尚、筆者自身が調べてみた所、この説はリオス・イ・リオスが最初に提唱したものではなく、17世紀スペインの人文主義者、文筆家のロサノ (Cristóbal Lozano:1609~1667)が自著"David perseguido"(1661年頃)で展開したのが初見であるそうだ6。従って、 約350年も前からある古い説なのであった。

●ニエト(Emilio Nieto Ballester)が提唱した説
「大いなる恵みをもたらす谷、肥沃な谷」を意味する*val donadoが転訛して生じた地名に因む姓という(つまり、第一要素を英valley「谷」と同語源 と解釈する説明である)。然し、家族名Maldonadoを語源としている事が 明白であるアルバセテ県ホルケラ(Jorquera)村に所属する小地名Maldonadoを除外すると、ValdonadoとかMaldonadoなどという語形の地名は 一つも記録されていない点から、この説も殆ど有り得ないと判断できる。

●クレエモス(Creemos)やファウレ等が提唱している説
後半要素-donadoの解釈はニエト説に同じだが、前半要素Mal-は西mal「悪い」と解釈する。後半要素について詳述する。後半要素は、古 カスティーリャ語でdonoso、即ち「天性の徳を備えた、優雅さや気品のある」と同じ意味を持つ形容詞donado(ラdōnāre「与える、贈る」の 完了分詞dōnātusに由来)である。mal donadoとは即ち、「優美さの無い」を原義とし、そこで当姓は「粗野な人、無作法者、あまり可愛くない人、 不細工な奴」等の意味を表した渾名に由来する考えられる。カスティーリャ語には*maldonadoという形容詞は記録に無いが、DRAE7に「味気ない、 気品の欠けた(insulso, falto de gracia)」の様に定義され、古くは「鈍い、粗野な、不幸な(torpe, rústico, desdichado)」をも意味した desdonadoという単語が存在する。従って、恐らくは*maldonadoは通俗的表現であり、desdonadoはより教養的・文学的表現であって、それが 故に後者は文献に記録が残ったものの、前者は苗字にだけ化石的に名残を留めたのであろう。この説明は他説に比べ非常に説得力があり、 『Oxford Names Companion』でも採用されている。私も全面的にこの説を支持する。
[Tibón(1988)p.145-146,Faure et al.(2009)p.487-488,Alcántara(2004)p.203-204,ONC(2002)p.398]
Nunus Petri, Maledolatus(1221年Poyo(ガリシア州ポンテベドラ県):兵士)8

②ニックネーム姓。一方、スペインのガリシア語学者ペンサド(José Luís Pensado Tomé:1924~2000)の指摘では、この姓はスペイン北西部ガリシア州ポンテベドラ (Pontevedra)県カンガス=デ=モラソ(Cangas de Morrazo)村内のアルダン(Aldán)という場所の発祥だそうである。以下に、最初期の名前の記録を 同県ポイオ(Poyo)にあるサン・ファン(San Juan)修道院所蔵の古文書に録されている史料から列挙する8(1221年の形は 上記に挙げたものに同じデータ)。

Ego Nunus Petri, Maledolatus, miles, et uxor mea Eldara Fernandi(1221年)8
「Maledolatusの異名を持つ私Nuño Perez、兵士、そして我妻Eldara Fernandez」

tenente castello Daravo Nunus Petri Male dolato(1227年)8
「Daraus城封臣Nuño Perez Male dolatoより」

tenente opido Daravo Nunus Petri Maledolato(1241年)8
opidoは「町」の意。

filiae quondam domini Nunonis Petri, dicti Maldoado(1275年)8
「Maldoadoと呼ばれたNuño Perezの娘達」

Don Giral Nuñez de Aldaam, fillo de don Nuño Perez Maldoado(1297年)8
「Aldán村出身の領主Giral Nuñez。Nuño Perez Maldoadoの息子」

上記5例の内、最後の1例はガリシア語で書かれているが、それ以外は中世ラテン語で記述。従って、この名はガリシア語ではMaldoadoの名で呼ばれ (1275年の記録はMaldoadoだけがガリシア語形)、そのラテン語形はMaledolatusと認識されていた事が判る。 カステーリャ語(スペイン語)ではlがnに変化して、Maldonadoの語形に転じたが、これは後半要素がラdōnāre「与える」の派生と勘違いされて 語形が変化したものとペンサドは考えている様である。そうなると、上記①のファウレやONCが唱える説とは別の語源という事になる。 もし、マルドナド姓が中世スペインの渾名Maledolatusを祖形としているなら、第二要素はラdolāre「叩き切る、切って形作る、したたか打つ」 9の完了分詞と見る他無い。ペンサドも同様に考えている様で、この渾名の後半要素はラテン語で「木材を滑らかに削る、 組み立てる、磨く」を意味するdoloに遡るとしている。これは、先述の動詞dolāre「叩き切る、切って形作る」である事は疑いない(cf.西dolador「石工、 大工」,doladera「手斧(チョウナ)」)。

更に、次のようにペンサドは言う6, 8
"古カステーリャ語に「偶像」を意味するdohadizoという語がある。dolatusとは「すべすべした物体(una cosa pulida)」の事であり、その複合語である male-dolatusとは「粗悪に作られた・滑らかではない・不恰好な像」の名前に用いられた可能性がある。先述のNuño Perezという人物は不恰好な体形 をしてたり、何らかの奇形を持っており、そこでmal(e)dolato、maledolatus、更に末尾子音tがdに変音したmaldoladoという語彙で呼ばれたのだろう。 ガリシア語では母音間の[l]が失われ、Maldoadoの語形が段々常用される様になり、一方カステーリャ語ではlがnに転じてMaldonadoの形に落ち着いた。 サルミエント(Sarmiento)によれば、この姓はガリシアで渾名から生じたと推察しており、既にアラゴンでこの姓がカステーリャ語化した点に関しても、 証拠を挙げている。"

像の名前を経由しているかどうかは定かではないが、原義としては「不恰好な人、身体に何らかの障害のある人」を表現した渾名Maledolatusに 由来している、というのがペンサドの意見である。この説も、中々面白くそれなりに得心のいく提案である。実際には①の「無作法者」由来と 平行して、male-dolatusを語源とする姓も存在したが、後にMaldonadoの語形に合流したと考える事も出来る。
[Alcántara(2004)p.203-204、Martín Sarmiento,José Luis Pensado "Colección de voces y frases gallegas."(1970)p.394-398]
◆ラdolāre「叩き切る、切って形作る」←PIE*dol-ā-(o階梯+動詞形成接尾辞)←*del(ə)-「割る、削る、切る」(古アイルランドdelb「形」,古ノルドtelgja 「切る、切り落とす」,ラトヴィアdalît「分ける」,サンスクリットdā̆láyati≪3・単・現≫「割る、壊す」,アルメニアtaġ「印象」,アルバニアdalloj 「分ける、区別する」)10。殆どの語派に対応語有り。
1 Faure et al.(2009)p.487-488
2 Arnold Wion "Lignum vitae, ornamentum, & decus Ecclesiae: in quinque libros diuisum."(1595)p.116
3 Henning Reventlow "History of biblical interpretation. vol.3"(2010)p.201
4 Jerónimo Osorio "Historiae Hieronymi Osorii."(1580)p.345
5 英語語源辞典p.387
6 Alcántara(2004)p.203-204
7 ファウレ本原文ママ。恐らく、なんかの辞書の略称。特に必要ないと思い、文献の正式名称は調べていない。
8 Martín Sarmiento,José Luis Pensado "Colección de voces y frases gallegas."(1970)p.394-398
9 研究社羅和辞典p.210
10 Watkins(2000)p.15-16、Pokorny(1959)p.194-196

執筆記録:
2011年11月13日  初稿アップ
PIE語根Mal-do-n-a-do:1.*mel-「誤った、悪い」;2.*dō-「与える」;3.*-no- 名詞・形容詞形成接尾辞;4.*-ā- 動詞形成接尾辞; 5.*-to- 完了分詞・形容詞形成接尾辞
Mal-don-a-do:1.*mel-「誤った、悪い」;2.*del(ə)-「割る、削る、切る」;3.*-ā- 動詞形成接尾辞;4.*-to- 完了分詞・形容詞形成接尾辞

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