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Maginot マジノ(仏)
概要
ラテン語の男名ドミニクス(Dominicus:原義「主(人)の」)から生じたフランス男名ドマンジュ(Demange)から、頭音消失や指小辞接続によって生じた短縮名より。
詳細
Jehan Maginot(1435年Soissons(エーヌ県))1
François Maginot(1713年Stainville(ムーズ県):錠前屋)2

父称姓。フランスの軍人、政治家アンドレ・マジノ(André Maginot:1877.2.17~1932.1.7)の姓。ドイツとの国境に存在する防衛用要塞線「マジノ線」 の名祖。フランス北部に多く、1891~1915年の調査では、全国138件中70件がムーズ県での記録で、次に20件のパ=ド=カレー県が続く。 同源のマジネ(Maginet)姓は14件中10件がノール県、マンジノ(Manginot)姓は47件中25件がムルテ=モーゼル県(それ以外は隣県に多し)、 マンジュノ(Mangenot)姓は170件中54件がムルテ=モーゼル県、36件がヴォージュ県、34件がモーゼル県で、いずれも北部に分布が偏っている。

ドザ(Albert Dauzat)以来、男名ドミニク(Dominique)の古い異形ドマンジュ(Demange)の頭音消失形に指小辞が接続した個人名マンジャン (*Mangin)に更に指小辞-otが接続して派生した男子名マンジノ(*Manginot)の異形マジノ(*Maginot)に由来するとされる。男名ドミニクは、 恐らく中世の間公文書や教会で人為的に保存されていたラテン語の語形(中世ラテン語形)がフランス語に取り入れられた形で、男名ドマンジュは 古いドミニクス(Dominicus)というラテン語の個人名から直接発達したもの。つまり、北フランスで引き継がれてきた民衆が用いた語形であろう。 ドミニクスという名前は、ラdomus「家」に形容詞・名詞派生接尾辞が付随して生じたラdominus「主人、支配者、主」に、更に形容詞・名詞派生接尾辞が くっついて生まれたラdominicus「主人の、ローマ皇帝の、主の」の人名転用である。つまり、マジノ(Maginot)という姓は、形態素で分割すると M-a-g-in-otとなるが、最初のM-以外は全て接尾辞である事になる。

次に、ラテン語の男名ドミニクスから古いフランス男子名ドマンジュまでの語形変化の経緯を考えてみたい。先ず、ドミニクスの単数対格形から 生じた最初期の俗ラテン語形*Dominicuが生まれる。次に母音間の無声破裂音は同化により対応する有声音に変わる(*Dominigu)。次に起きるステップは ラテン語の語彙の基礎知識が必要である。ラテン語の三音節以上の単語は、後ろから二番目の音節の量によって位置が 決まるという法則が有る。問題の音節が短い場合、即ち開音節(母音で終わる音節)で、且つ母音が短母音である場合、その直前の音節の母音に アクセントが落ちる。従ってDomínicusというアクセント位置で、その後進*Dominiguも*Domíniguというアクセントであったろう。アクセントのある 位置より後ろの音節の母音は弱化が進み、eに変化するか或いは完全に消失するかした。*Domíniguは後ろから二番目の音節の母音を失い、最後の音節の母音も屈折の 指標の役割を担う為に残ったものの弱い母音eに転じた。こうして、*Domingeの形が得られる。この変化はガリア以西のラテン語域に平行して生じていた ものであるらしく、スペイン語のドミンゴ(Domingo)も同じステップを踏んで誕生したと考えられる。更に、第一音節の母音も弱化しeに(*Deminge)、第二音節は音節末に nがくる閉音節と化し、母音とnが吸着して鼻母音に転じた。これは、綴りの上では*Demangeともつづられたのだろう。この語頭音消失形から マンジュ(Mange)という短縮名が派生した。

シャンパーニュ地方のマルヌ(Marne)県の県都シャロン=シュール=マルヌ(Châlons-sur-Marne)にサン=マンジュ(Saint-Mange)街という区画があり、 またそれが故にシャンパーニュにはマンジャン(Mangin)、マンジャール(Mangeart)、マジノー(Magineau)という人名が多く見られるとの指摘がある 3。 確認できないが、Mangeという名の聖人がこの地域に居たのかも知れない。その人物にあやかって、ピカルディー東部からアルデンヌ、シャンパーニュ 、ロレーヌに渡る仏北部にこの系統の個人名が多く使われ、苗字として残ったのであろう。1891~1915年の調査では、 Mangin姓は全国1869件中、ムルテ=モーゼル県が321件で1位、以下2位ヴォージュ県(300件)、3位ムーズ県(190件) 、4位パリ市(188件)、5位モーゼル県(186件)、6位マルヌ県(105件)、7位ノール県(65件)・・・と北部に圧倒的に分布が偏り、 Mangeart姓も全国17件中12件がマルヌ県の記録である(Magineauは全国7件のうち3件がパリ市、2件が仏中部のアンドル県の記録で 分布位置が違っており、問題がある)。
[Morlet(1997)p.311,p.647,p.657,Tosti(1997~)m1項,Dauzat(1945)p.123,ONC(2002)p.176f.]
1 Gustave Dupont-Ferrier "Études sur les institutions financières de la France à la fin du moyen âge. vol.1"(1930)p.87
2 Frédéric Schwindt "La communauté et la foi? : Confréries et sociétés dans l'ouest de l'espace lorrain (XIII-XXèmes siècles). vol.3 "
3 Paulin Paris "Les grandes chroniques de France: selon que elles sont conservées en l'église de Saint-Denis en France. vol.3"(1837)p.234の脚注1

執筆記録:
2011年11月20日  初稿アップ
PIE語根M-a-g-in-ot:1.*dem-「家」;2.*-no- 形容詞・名詞形成接尾辞;3.*-ko- 形容詞形成接尾辞;4.*-no- 形容詞・ 名詞形成接尾辞;5.語根不詳

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