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Machiavelli マキャヴェッリ(伊)
概要
①「悪い釘」を意味する中世イタリアの渾名Malclavellus(ラテン語形)に由来するが、「悪い釘」が何を表現しているかは不明。
②非文証の男名マルキオード(*Malchiodo:東方の三博士メルキオルの異形)が、Mal「悪い」+chiodo「釘」と誤解され、後半がchiavello「釘」と置換した。
詳細
Henricus malclavelli(1041年Brescia(ロンバルディーア州))1
Ansaldo Malclavello(1137年Nebbio(リグーリア州))2
Paganus Malclavellus(1165年Amblainville(仏ワーズ県))3
Dominicus de Malclavello(1175年Vicenza(ヴェネト州))4
Gerardus Malclavelli(1255年Modena(エミーリア=ロマーニャ州))5
Laurentio Maclavello/Alaoni Maclavello(1456-1460年Genova(リグーリア州))6
Hieronymus Malclavellus(1498年Vicenza)7
Petro Joanne Paulo Malchiavello(1538年Modena)8

上掲の如く、かなり古い歴史を持つ姓で、初出は1041年である。その使用例も多く、上掲に挙げたように、フランスにも同じ語源の苗字が 嘗て存在していた(上には一例だけ挙げたが、他にもフランスでの使用例がある)。Machiavelli姓は現代イタリアではかなり珍しい姓で、 ロンバルディーア州、トスカーナ州に若干見られる。異綴のマッキャヴェッリ(Macchiavelli)姓はエミーリア=ロマーニャ、ロンバルディーア、 リグーリア各州に、マッキャヴェッロ(Macchiavello)姓はリグーリア州に多い。3姓のうち、Macchiavelli姓が最も使用人口が多い。思想家の ニッコロ・マキャヴェッリの姓自体も、当時の文献では様々な綴りで現れており、1499年4月29日の書簡ではNicholaus Maclavellusという 中世ラテン語形で見える9。又、友人達がニッコロに宛てた書簡では、手紙ごとに宛先のニッコロ・マキャヴェッリの 姓の綴りが違っている。以下に例を挙げる。
Niccolò Machiavelli(1502年10月2日:書き手Nicolò Valori)10
Nicolao Malclauellis(1502年10月14日:書き手Augustinus(=Agostino Vespucci))10
Nicolao Maclauello(1502年10月18日:書き手Blasius(=Biagio Buonaccorsi))10
Niccolao de Machiauellis(1502年10月27日:書き手Iachopo(=Iacopo) Salviati)10
Nicolao Maclavello(1502年10月27日:書き手Blasius)10
Nicolao Malclavello(1502年11月3日:書き手Blasius)10
Nicolao Malchiavello(1502年11月7日:書き手Marcellus Virg(=Marcello Virgilio))10
当時の綴り字の大らかさが見て取れる。本人自身の署名ではNicholo Machiavegliの綴りが用いられている11。 この姓の語源に関しては大きく分けて2つの説がある。
①ニックネーム姓。伊malo「悪い、醜い、不幸な」とラclāvus「釘」12の指小形である後ラclavellus「小さな釘」 13から生じた伊chiavello「(小さな)釘、いぼ((piccolo) chiodo, verruca)」13 の合成語に由来する渾名Malclavellus(ラテン語形)14、*Machiavello(イタリア語形)に由来する。即ち、文字通りには 「悪い釘」を意味する。「悪い釘」の「釘」が意味するところは「陰茎」の暗示であるとされ、この渾名は「女たらし、性欲旺盛な男」を意味するとする説 15と、「男性の能力の足りない奴」を意味するとする全く正反対に解する説9が存在する。 「陰茎」説を提唱したのは、どうもデ・フェリーチェ(Emidio De Felice)が最初であるらしい16。私は、デ・フェリーチェの 苗字本は持っていないので、実際どの様な記述がされてるのか判らないが、彼の説に従うミネルヴィーニやフランチパーネの苗字本によれば、 Machiavelliは性的な意味合いの名で、男性の能力(capacità virili)、或いは陰茎(membro virile)をほのめかしたものとしか説明が無い。 ネットでの、イタリア姓を扱ったサイトでも同様の言及にとどまる。これらから判断すると、デ・フェリーチェは第一要素の伊mal(o)「悪い」がどういった意味合いで 用いられているのか明言を避けている様である。恐らく彼の説のフォロワー達が各々、伊mal(o)を好き勝手に解釈した為に、この様な全く正反対の説明が 生まれたのではないか。伊mal(o)「悪い」を、「女たらし」説では"道徳的"な「悪い」の意で、「フニャチン野郎」説では"性的活力"が「悪い」の意で 認識されているのだろう。

一方、「陰茎」説に対して後に別の指摘もなされている。「悪い釘」という表現は、キリストを十字架に打ち付けている釘を表しているとするものである。この説の初見は、ルッフォ=フィオーレ(Silvia Ruffo-Fiore)が 著したニッコロ・マキャヴェッリの伝記(1982年)が最初の様である。以下に、該当部分の訳を掲載する17
"マキャヴェッリ家は市政との関わり合いが深く、幾年にも渡って12人の都市国家の行政長官(伊gonfaloniere)と24人の小修道院長(英prior)を 輩出してきた。然し、この家系は貴族などではなく、popolani grassi、即ち富裕層の平民であったと見なされている。一族は、彼等の名前の 起源となった盾形紋章(coat of arms)を持っていた。紋章には銀色の下地に青の十字架が描かれ、十字架の四端には青の釘が一本ずつ穿たれている。 イタリア語で「悪い釘」を意味するmal chiavelli、malclaveli、malchiavelli等の表記は、恐らくは十字架にキリストの体を強く打ち付けている 残忍な釘(the cruel nails)を表現している。"

ルーム(Adrian Room)もこの新説に賛同している9。普通は、苗字が先にあって、 その苗字の名前に掛けた洒落を紋章のデザインにする18。 例えば、英国の作家シェイクスピア(Shakespear)の姓は「槍振り」を意味する為、彼の家の紋章には「槍」があしらわれ、ドイツの言語学者グリム (Grimm)の姓は「憤怒」を意味する為、一家の紋章には「憤怒する獅子」の絵があしらわれている。つまり、ルッフォ=フィオーレが言う様に、 釘が穿たれた十字架の紋章に因んで姓が生じたのではなく、実際はその逆である可能性が高い。もし、Machiavelli家の場合も姓と 紋章の由縁に関連があることを認めるならば、Machiavelliという名前がキリストの磔刑の際打ち付けられた釘を想起させたと考えるべきだが、 果たしてこの連想を姓の由来・語源にまで適用して良いものかどうか疑問が残る。いずれにしても、mal chiavelliという語句が文字通り 「悪い釘、有害な釘」を意味するのは論を待たないが、それが何を表現したものかは姓の初出時期である11世紀前半における、この語句の実際の使用例に 当たらない限り確定することは難しい。
[Francipane(2005)p.514,Minervini(2005)p.286,ONC(2002)p.394,Rossoni(2000)ma項]
②父称姓。新約聖書に登場する東方三博士の一人の名前メルキオール(Melchior)から生じた多くのイタリア人の男子名の一変種とされる 19。この説は、ロッソーニ(Ettore Rossoni)氏の運営するイタリア人ウェブ苗字語源辞典20 に、マルキオーディ(Ivan Malchiodi)氏の提案として紹介されている、大変面白い語源解釈である(後日私が調べた結果、手持ちの文献では フランチパーネの伊姓辞典に同様の指摘があるのを確認)。以下に、私自身が調べたデータや噛み砕いた 説明を交えて紹介する。メルキオールの名は様々な語形でイタリア語に取り込まれたが、この姓はその内の一つMalchioro 21の形から発達している。この男名Malchioroの 最後の音節-roの子音がdに変音しマルキオード(*Malchiodo)という個人名が誕生した([r]と[d]は調音点が相似通っているので、入れ替わる事がある。 サイトでは類例としてArcuri姓からArcudi姓への転訛が挙げられている。又、英Richardの短縮形Dickも参考になる)。この人名に由来するみられる 古い姓が、ピアチェンツァ(エミリア=ロマーニャ州)で確認される。以下に例を挙げる。
Gandolfo Malchiodo(1278年Piacenza)22
Paulo Malchiodo(1600年頃Piacenza)23
Michele Malchiodo(1623年Piacenza)24
現代イタリアでは、男名*Malchiodoの複数形マルキオーディ(Malchiodi)が姓として現役で、やはり最大の集住地はピアチェンツァである。男名*Malchiodoが 伊mal(o)「悪い」と伊chiodo「釘」と解され、後者をその古い異形であるchiavello「釘」(chiodo「釘」と共にラclāvus「釘、鋲」からの派生)に入れ替えて 新たに生み出された名前がMalchiavelloという男名とされる。更に縮約、或いは同化作用を受けてMacchiavelloという語形に至ったと考えられる。

但し、私が調べた限りではMalchiodoがファーストネームとして使用されている例を見出すことが出来なかった。調べた限りの†Malchiodo姓の 初出が1278年なので、それよりも200年以上前に初出例のあるMachiavelli姓(若しくは渾名)が、Malchiodoという名から生じたというのも少し納得がいかない。 11世紀以前に男名*Malchiodoの用例が見つかれば、この説が有り得る可能性が初めて出てくると思われる。
[Francipane(2005)p.514,Rossoni(2000)ma項]
以上の如く、マキャヴェッリは①、②共に大変興味深い面白い解釈が提案されている苗字なのである。私自身は、やはり①の説に一日の長が有ると思う。 ②説は、メルキオールという男名に由来するならば、例えばMalchiodoやMalchiavelloという形の男名としての使用記録という物的証拠が発見されない 限り、認めにくい(記録に残らなかったと言えば、それまでなのだが)。

尚、辻原康雄著『人名の世界史』(2006)p.98では、Machiavelli姓をラテン語で「美しい雑木林」を意味するとしている。恐らく、Machia-と-velliに分解し、前者を伊 macchia「低木地帯、藪、茂み」、後者を伊bello「美しい、綺麗な」と解釈しているものと思われる。然し、このアイデアでは上掲の姓の古い綴りを 説明できず、説得力に欠けている。又、伊bello,ラbellus「美しい」が複合語を作る場合、基本的に第一要素で用いられ、その点でもこの案は 難点が有る(但し、同じラテン系言語のフランス語にミラボー(Mirabeau)という、後半要素にラbellus「美しい」を持つ地名・姓が存在する)。 恐らく現在の姓の語形から、現代語を参考に付会したものであろう。語源解釈する前に、姓の古形を調査する等の基本作業を していないのだと思う。洋書を含め他書には見えない説であり、著者の辻原氏のオリジナルの説ではないかと 思われるが、そこら辺のところは不明。
1 Federico Odorici "Storie bresciane."(1857)p.90
2 Silio P. P. Scalfati "Carte dell’Archivio della Certosa di Calci. vol.2(1100-1150)"(1971)p.166
3 Société des antiquaires de Picardie "Mémoires in 4,̊: documents inédits concernant la province. vol.4"(1855)p.16
4 Giambatista Verci "Storia Degli Ecelini. vol.3"(1779)p.64
5 Girolamo Tiraboschi "Memorie storiche Modenesi: col codice diplomatico : illustrato con note. vol.5"(1795)p.50
6 Philip P. Argenti "The occupation of Chios by the Genoese and their administration. vol.3"(1958)p.756
7 Jacopo Facciolati "Fasti gymnasii Patavini."(1757)p.90
8 Jacopino de' Bianchi "Cronaca Modenese. vol.6"(1868)p.71
9 Room(2010)p.303
10 Pasquale Villari "Niccolò Machiavelli and his times. vol.2"(1878)の第5章(p.319-342)
11 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AD%E3%83%A3%E3% 83%B4%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%AA
12 研究社羅和辞典p.125
13 Maria Teresa Vigolo "Ricerche lessicali sul dialetto del'Alto-Vicentino."(1992)p.59
14 Minervini(2005)p.286
15 ONC(2002)p.394
16 Emidio De Feliceの"Dizionario dei cognomi italiani."(1978)がこの説の初見らしい。
17 Silvia Ruffo-Fiore "Niccolò Machiavelli."(1982)p.1
18 こういう紋章をカンティング・アームズ(英canting arms)という。しばしば、実際の苗字の語源とは違う間違った解釈が デザインに反映されているケースがある。例えば、ヴァイツゼッカー(Weizsäcker)家の家名は、独Weizenとは語源上無関係だが、家紋の絵柄にその 農作物があしらわれている。
19 東方の三博士は新約聖書『マタイ伝』(2:1-12)に登場する誕生したばかりのキリストに会いに来た占星術師たちだが、原典には人数も名前も 言及が無い。西暦500年頃アレクサンドリアでギリシア語で書かれた写本に、今日のメルキオール、バルタザール(Balthasar)、カスパール(Casper)の 原型となった名前が記されているのが、彼らの名の初見であるらしい(http://en.wikipedia.org/wiki/Biblical_Magi)。後にウルガタ聖書に これらの名が採用され、広く人口に膾炙することになる。東方の三博士の名前は複雑な背景を持つ為、別の機会に触れることにする。
20 http://www.cognomiitaliani.org/cognomi/ 大変優れた、しかも掲載量が半端ではないイタリア姓語源サイト (エットーレ・ロッソーニ氏運営)。イタリアの姓の語源サイトは幾つか存在するが、このサイトが最大である。非常に有益な情報やアイデアで ちりばめられており、大変おススメである。
21 Richard Silvian Wendriner "Die paduanische mundart bei Ruzante."(1889)p.29
22 Giuseppe Plessi "Guida alla documentazione francescana in Emilia-Romagna: Parma e Piacenza."(1994)p.450
23 Celsus de Rosini "Lyceum Lateranense, illustrium scriptorum ordinis clericorum canonicorum regularium Salvatoris lateranensis elogia. vol.2"(1649)p.6
24 Mariano D'Ayala "Dizionario militare francese italiano."(1841)p.21

執筆記録:
2011年11月13日  初稿アップ
2011年12月2日   脚注18のオラニェ家の家紋の話題を削除した。間違えて、オラニェ家の家名の語源となった南仏ヴォークリューズ県の町 オランジュ(Orange)の紋章の事を書いてしまっていた。この町の名は果物のオレンジとは語源上無関係だが、町の紋章にオレンジの絵が描かれている。 お詫びして、訂正する。
PIE語根①Ma-chiav-ell-i:1.*mel-「誤った、悪い」;2.*klāu-「鉤、杭」;3.*-lo- 指小辞;4.未調査

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