Liuzzi リウッツィ(伊)
概要
①6世紀のブリンディジ初代司教レウツィウス(Leucius:←ギleukós「明るい」)にあやかって広まった男名に由来。
②男名エーリオ(Elio:←ヘブライēlīyā́h(ū)「我が神はヤハウェ」)に指小辞がついて生じた男名Eliùzzoの頭音消失形に由来。
③その他エミーリオ(Emilio)等の-ilio(<ラ-ilius)を語末に持つ男名の短縮形に由来。
④古高独liut「民」を第一要素に採る男子名の愛称形リウツォ(Liuzo)に由来。
⑤現代ギリシア姓のレウツィス(Leutsis)に由来。
詳細
Sanda filia Liuzi de civitate Vigilie(1076年Bisceglie(プッリャ州))1
Mondino di Liuzzi(1275~1326年Bologna(エミーリア=ロマーニャ州):医師)2
Chiara Liuzzo(1722年Taranto(プッリャ州))1

イタリアのF1ドライバー、ヴィタントーニオ・リウッツィ(Vitantonio Liuzzi:1981.8.6 Locorotondo(プッリャ州)~)の姓。彼の出身地である イタリア半島の"かかと"、プッリャ州に大変多い姓である(特にバルレッタ=アンドリア=トラーニ県のビシェーリエ(Bisceglie)、タラント県)。 上掲姓の古形一覧に挙げた1076年の記録は、他でも無いビシェーリエの記録である(Vigilieはこの町名の古形)。約1000年近くも前から、ここに 分布していたのである。地域的に見ても、語形の面から見てもヴィタントニオ・リウッツィの姓の語源は①に由来していよう。

語源に関して複数の説が提出されているが、実際単純な語形の苗字なので、各地に散在する他のLiuzzi姓は、各々別の由縁を持っていると考えるのが 妥当である。
①父称姓、地名姓。ロッソーニ(Ettore Rossoni)氏のイタリア姓語源サイトに見える説。氏はヴェッツェッリ(Giovanni Vezzelli)氏の指摘を 掲載していて、それによるとプッリャ州に多く、Liuzzi姓と似た様な分布を示すレウーツィ(Leùci)の派生形としている3。 そして、1107年にブリンディジ(Brindisi:プッリャ州南部の港湾都市)大司教のレウツィウス(Leucius)という人物を指摘している。2人によれば、 この大司教の名はラテン語の個人名Leoの愛称形だという。つまり、ラleō「ライオン」に遡るとする説である。但し、この大司教は12世紀初頭の 人物だが、Liuzzi姓自体は既に述べた様に1076年が初出なので、年代的な矛盾が生じる。

実は、6世紀に活躍したブリンディジの初代司教もLeuciusの名であった。エジプトのアレクサンドリアの出身で、聖人として列せられている 4。聖人になっている位なので、知名度は高かったであろう。以降、この地一帯に彼にあやかってこの名を子供に付ける 事が流行った事が想像される。こうして名付けられた無名の個人名が姓となったものだろう。この説は、F1レーサーのリウッツィがバーリ県 最東端のコムーネの出身で、地域的に見ても近いことから彼の姓の語源として最も説得力が有る。

所で、アレクサンドリアは、6世紀には東ローマ帝国(ビザンティン帝国)領内にあり、ギリシア語が話されていた。従ってこの都市の出身である 司教Leuciusの名がラテン語に由来するという説は、少々説得力に欠けている感が有る。そこで私は、ギleukós(λευκός)「白い、明るい、輝いている」 に由来するという説を提案したい。leukósの語根に何らかの接尾辞(たとえば形容詞形成接尾辞-ios)が接続しイタリア語に入ってラテン語化した形が Leuciusではないだろうか。問題は古典ギリシア語の二重母音-eu-の後半-u-が、中世ギリシア語期(330–1453年)初期に子音[f](無声子音が後続する場合) 5に変化してしまう点である6。この音韻変化が生じた正確な時期は良く判らないが、中には 紀元後1世紀に変化したとする説も有る7。この音変化後に南イタリアにもたらされた場合、以降イタリア語の中でどんな 変化を辿っていくか、私にはちょっと想像がつかない(母音+fkという形は通常の古いイタリア語には存在しない)。アレクサンドリアは中央から離れて いた為に、この変化が伝播するのが遅かったはずである。或いはイタリア語の発音に妥協し、ευをeuと文字通りに転写・イタリア語読み した可能性も考えられる。以上の理由からギleukósに由来するのは、十分有り得ると言えるだろう。従って、Leuciusとは「明(アキラ)」といった程の 意味の男名と考えられる。

尚、ミネルヴィーニはLiuzzi姓の語源説の一つに、ビッシェーリエの直ぐ東に隣接するバーリ県のモルフェッタ(Molfetta)というコムーネにある 小地名サン=リウッツォ(S. Liuzzo)に由来説を唱えている。これも恐らくは、先の初代司教に因んだ名前であろう。彼は列聖されているので、 San「聖なる」の称号が付加される。
[Minervini(2005)p.275,Rossoni(2000)li項]
②父称姓。男名エーリオ(Elio)に指小辞-uzzo(<ラ-ūceus)が付いて派生した個人名エリウッツォ(Eliùzzo)の頭音消失形に由来する。男名Elioは、 後ラElias、ギĒl(e)íasを経由してヘブライēlīyā́h(ū)に遡り、ヘブライēlī「我が神」(←ēl「神」←セム*ʾil-「神」8)と ヘブライyahwéh「ヤハウェ(原義「存在」)」(←セム*h-w-ʰ「有る、存在する」)(cf.Jehovah)より構成されている9。 ミネルヴィーニは男名Elioの語源をギhélios「太陽」起源と見ているが、ヘブライ語起源と見るべきであろう。
[Minervini(2005)p.275,Rossoni(2000)li項]
③父称姓。パローディは、男名バシーリオ(Basilio)、エミーリオ(Emilio)等の愛称形に由来するとしている。但しこの伝で行くと、ラテン語の指小辞 -il-+形容形成接尾辞-iusを語末に持つ男名ならどれでもLiuzzi姓の語源に足り得る。従って、この場合のLiuzzi姓は完全に複数の接尾辞と 語尾だけで形成されている事になり、この姓単体では何も意味が存在しない事になる。
[Parodi(2006)p.187]
④父称姓。ロンバルディーア州のLiuzzi姓(特にミラノに多い)は古高地ドイツ語起源と考えられる。この姓の語源と思しき男子名が、既に996年モデナ(Modena: 伊北部エミーリア=ロマーニャ州)の教会の古文書に見える。以下はその書類内で聖職者が記した自署である10。 イタリックは問題の人名で、引用者マルピコスによる。

Ego Oddo Archipręsbyter ſubſcripſi.
Ego Sigifreddus Archidiaconus ſubſcripſi.
Ego Liuzo pręsbyter m. m. s. s.
Ego Dominicus praesbyter m. m. s. s.
Ego Garualdus pręsbyter m. m. s. s.
Ego Heribertus pręsbyter m. m. s. s.
Ego Dominicus pręsbyter m. m. s. s.
Ego Dominicus Diaconus m. m. s. s.
Ego Germinianus Diaconus m. m. s. s.
Ego Dominicus Diaconus m. m. s. s.
Ego Orſovertus diaconus m. m. s. s.

この内、Oddo、Sigifreddus、Garualdus、Heribertusは明らかにドイツ人の男子名である11。恐らく彼らは、 ロンバルディーアに進出した古高地ドイツ語諸語の一つランゴバルト語の話者の末裔であろう。Liuzoもドイツ人の男名と考えるのが適当で、古高独の 男名リウツォ(Liuzo)12そのものである。Liuzoは古高独liut「民」を第一要素に採る男子名の愛称形で、語末の-zoは指小辞。 即ち、「民ちゃん」といった意味の名である。ここから、イタリア北部に古くLiuzoの男名が根付き、語尾を複数形化して「Liuzoの子孫」の意で姓と したものが、北部のLiuzzi姓であろう(但し、南部起源のLiuzzi姓の人物がミラノに移住して広まった可能性も有り得る)。尚、この説は私の考え なので苗字本には未載。
⑤パローディは又、現代ギリシア姓のレウツィス(Leutsis)に由来するという。この姓がギリシアに実在するのかは確認が出来ていないし、原義も 判らない13。 [Parodi(2006)p.187]
1 Minervini(2005)p.275
2 F. González-Crussi "Carrying the Heart: Exploring the Worlds Within Us."(2009)p.159
3 http://www.cognomiitaliani.org/cognomi/cognomi0010i.htm
4 http://it.wikipedia.org/wiki/Leucio_d%27Alessandria
5 母音又は有声子音(nを除く)が後続する場合は同化により[v]となる。これを反映している有名な単語としては、かの有名な社会現象まで 巻き起こしたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の語源となったギeuaggélion(εὐαγγέλιον)「福音(原義「良い知らせ」)」がある。これは 恐らく後期ラテン語を通して中世ギリシア語からの借用であろう(私の考え)。又、nが後続する場合は、やはり同化により[m]に変化した。
6 http://en.wikipedia.org/wiki/Medieval_Greek
7 http://www.page.sannet.ne.jp/kitanom/modgre/bakh2.html
8 http://en.wiktionary.org/wiki/Appendix:Proto-Semitic/%CA%BEil-
9 英語語源辞典p.421
10 Girolamo Tiraboschi "Memorie storiche modenesi. vol.1"(1793)p.154
11 順に今日のドイツ人男名オットー(Otto:原義「富、財産」)、ジークフリート(Siegfried:原義「勝利+平和・防御」)、ゲーラルト(Gerald:原義 「槍+統治・支配」)、ヘルベルト(Herbert:原義「軍団+明るい」)に対応。また、この記録からイタリアの男名ドメーニコ(Domenico)が当時からありふれた 名前であった事がわかる。蛇足になるが私としては最後に見えるOrſovertus(Orsovertus)という名前に大変興味を引かれる。これはどう見ても、伊orso「熊」と ラvertere「回す」の派生語によって形成された名前である。「熊回し」とは一体どういう意味なのだろう。
12 Förstemann(1966)sp.859
13 米国の死亡記事にAntonis Leutsis(1914年に2ヶ月で死去)の名がある(参考サイト:http://library.uml.edu/clh/ Dea1914/DeL1914.Html)。

執筆記録:
2011年1月12日  初稿アップ
PIE語根:①Liuz-z-i: 1.*leuk-「光」; 2.*-yo- 形容詞形成接尾辞; 3.*-(o)i 複数を表す語尾
②Li-uz-z-i: 1.セム語根*ʾil-「神」; 2.*-ko- 形容詞・名詞形成接尾辞; 3.*-yo- 形容詞形成接尾辞; 3.*-(o)i 複数を表す語尾
③Li-uz-z-i: 1.*-lo-指小接尾辞; 2.*-ko- 形容詞・名詞形成接尾辞; 3.*-yo- 形容詞形成接尾辞; 3.*-(o)i 複数を表す語尾
④Liu-zz-i: 1.*leudh-「増える、成長する;人々」; 2.語根不詳; 3.*-(o)i 複数を表す語尾

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