Gauguin ゴーギャン(仏)
概要
①円卓の騎士ガウェインの名のフランスにおける古形Gualguain、Guauguain、Gauguain(語源不明)に由来する。
②古仏gaugue「没食子(モッショクシ:noix de galle)」の指小形に由来し、「染料職人」に与えられた姓か。
③ゲルマン人の男名Gaugin、Gaug(o)win(gaug-の要素の語源不明)に由来する。
詳細
Michel Gauguyn(1531年Vendôme(ロワール=エ=シェール県))1
Pierre Gauguain(1564年Caen(カルヴァドス県))2
François Gauguin(1593年Beaugency(ロワレ県))3

ゴーガンとも。フランスの画家ウジェーヌ・アンリ・ポール・ゴーギャン(Eugène Henri Paul Gauguin:1848.6.7 Paris~1903.5.8 Atuona(マルキーズ諸島 、ヒバオア島))の姓。仏中部ヨンヌ(Yonne)県に多い。同源と考えられる姓にGaugain, Gaguin, Gaugin, Gauguain, Gauguienがある。 尚、辻原康夫『人名の世界史』(平凡社、2005)p.29にはGauguin姓の語義を「測量士」とし、職業に因む姓としている。然し、根拠が示されておらず、 この様な解釈をとっている資料も他に見えないので、辻原氏のオリジナルの説ではないかと思われる。この記述は、誤りや不正確な記述が多い本書の中でも最も理解に苦しむ 奇怪なものの一つで、その解釈に至った理由は定かでない。

①父称姓。円卓の騎士のガウェイン(英Gawain)の名のフランスにおける古い形から生じた(マルピコス説)。既に誰かに指摘されていてもおかしくない解釈だが、 今の所私の知る限りでは洋書を含め未確認。

今日知られているガウェイン(Gawain)の名前の確実な直接の先祖に当たる名前は、中世イングランドの歴史家・ベネディクト会修道士ウィリアム・オヴ・マームズベリ (William of Malmesbury:1095年頃~1143)が著した『歴代イングランド王の事績(Gesta Regun Anglorum)』(1125年頃)に、Walwenの形でみえる 4。後、聖職者・歴史家のジェフリー・オヴ・モンマス(Geoffrey of Monmouth:1100年頃、ウェールズ(?)~1155年頃)が著した 『ブリタニア列王史(Historia Regum Britanniae)』(1136年頃)に見えるもので、Gualguanus5、Walwan(i)us6、 Gwalwan(i)us6、Gwalgwan(i)us6と綴られている。更に後、ブリタニア列王史を下敷きにアングロ・ ノルマン人の詩人ワース(Wace:1115年頃、ジャージー島~1183年頃)が著した『ブリュ物語(Roman de Brut)』(1155年)では、Walwan7、 Walwain6, 7という形で現れる。現在のオランダ語でのガウェインを表す綴りWal(e)weinはその名残を留めている。

フランスでは後に、語中の二つのwがgu、或は単純なgに変化したGualguain、Guauguain、Gauguainといった綴りや、最初のwだけが変化したGualwain、Gauwain、 Gawain(この語形が英語にもたらされたと思われる)、更に後半のwがvにに変化したGalvain、Gauvain、Gavainといった綴りが用いられた 7。ゴーギャン(Gauguin)姓は、これらのフランスにおけるガウェインの名の古形から無理無く導き出される形である。

ガウェインの初出形Walwenの語源ははっきりしない。 ウェールズの伝統的な英雄グワルフマイ(Gwalchmai、Gwalchmei) に由来するとされるのが一般的である。グワルフマイの語源は、第一要素がウェールズgwalch「鷹」に由来するのは諸説一致しているが、後半要素の 解釈は困難を極めている。この要素に関して、ウェールズMai「五月」(=英May)とみて、全体で「五月の鷹」を意味するという説が広く知られている。 然し、中世ウェールズ文学の専門家であるブロムウィッチ(Rachel Bromwich)によって、有り得そうもないと退けられている。彼女は、代案として ジャクソン(Kenneth Jackson)が提案しているブリトニック祖語の*Ualcos Magesos「平原の鷹」に由来するという説を自著に挙げている4。 また、コック(John Koch)は第一要素は「鷹」ではなく、祖型をブリトニック祖語*Wolcos Magesos「平原の狼戦士(Wolf Warrior of the Plain)」と する。これは第一要素を印欧祖語*wĺ̥kʷos「狼」(英wolf,ラlupus,露volk)に遡らせる説。また、米国の中世学者ルーミズ(Roger Sherman Loomis:アーサー王文学専門)は、 1100年頃に成立したウェールズ語文献『キルッフとオウェイン(Culhwch and Olwen)』に見られる英雄リストに挙げられている人名Gwrvanを形容する句Gwallt Avwynに 由来し、その意味は「手綱の如き髪(hair like reins)」、「明るい髪(bright hair)」としている。第一要素はウェールズgwallt「髪」8 (英wool「羊毛」と同根)だが、後半要素Avwynはこれに類する語がウェールズ語の辞書にも見えず、ルーミズの解釈の根拠は不明。

他にも、ガウェインの名の最古層の記録では欧州でWalewan、Walwen、Waliwan、Walwain、Wal(e)wein、Walwán、Walawan、Walban、Walwi(j)n 等の形が用いられており9、謎の多い形をしている。語源の解明は今後も難しいと思われる。
②ニックネーム姓。古仏gaug(u)e,gauque,gaughe,gauke「クルミの一種(a kind of nut(学名Juglans regia))」10の指小形に由来し、 「クルミの木の生える地の住人、クルミ商人・農家、ナッツが好物の人」を意味する可能性がある。

また、トスティによれば古仏galge,gaugueには「没食子(モッショクシ:noix de galle)」11の意味があるといい、 その意味に由来する可能性がある。没食子は虫瘤(ムシコブ)の一種で、ブナ科の植物の若芽がタマバチの 一種によって寄生されて瘤状に膨張したもので、染料やインクの原料となった。このインクは没食子インク(英iron gall ink)と呼ばれ、既にローマ帝国時代から知られており、 中世の西ヨーロッパの主要筆記用具として用いられた12。従って、この染料に関連する職業に由来する姓の可能性がある。
[ONC(2002)p.240,Morlet(1997)p.449,Tosti(1997~)g2]
③父称姓。モルレがゲルマン人の男名*Gaugowin由来するとする仏姓ゴーゴワン(Gaugoin)と同源の可能性もある。彼女によれば、このゲルマン個人名はゲルマン語のgaug(=gaut)「ゴート人」+win「友」より構成されるとみているが、この要素解釈は gaut→gaugの音変化に難点が有るため支持しがたい。gaug-を要素に取るゲルマン人個人名は若干存在し、Gaugin, Gaugefreda, Gaugerich, Gaugiold, Gaugiulf 13等の記録が残っている。但し、gaug-という要素の起源は明らかでない。ゲルマン語の指小辞-īnから派生させた愛称形Gauginや、ゲルマン祖語*winiz 「友」(デンマークven「友」)を第二要素に取る*Gaug(o)winという名前からゴーギャン姓が生まれた可能性は十分あり得る(特に後者)。
[Morlet(1997)p.449,Tosti(1997~)g2]
◆古仏gaug(u)e「クルミの一種」←noix gauge「クルミ」←俗ラ*nux gallica「クルミ」(原義「ガリアのクルミ」)。cf.ド・ゴール(de Gaulle)、 ヴァルヒ(Walch)
1 Société archeologique, scientifique et littéraire du Vendômois "Bulletin de la Société archéologique du Vendomois . vol.4"(1865)p.97
2 http://archive.org/stream/cu31924029790056/cu31924029790056_djvu.txt
3 M. de Martonne "Inventaire sommaire des Archives départementales antérieures à 1790: Loir-et-Cher."p.405
4 http://en.wikipedia.org/wiki/Gawain
5 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%B3
6 Centre de philologie et de littérature romanes, de l'Université de Strasbourg "Travaux de linguistique et de littérature. vol.1"(1973)p.550
7 Antoine Rivet de la Grange, ‎François Clément, ‎Charles Clémencet "Histoire littéraire de la France. vol.30"(1888)p.29
8 Buck(1949)p.203
9 Max Niemeyer "Hermaea."(1905)p.140
10 Godefroy(1880-1902)vol.4 p.246、http://www.cnrtl.fr/definition/dmf/gauge
11 http://jeantosti.com/noms/g2.htm
12 http://en.wikipedia.org/wiki/Oak_apple
13 Förstemann(1966)sp.508

執筆記録:
2013年11月9日  初稿アップ
PIE語根①Gauguin:1.語根不詳
②Gau-gu-in:1.語根不詳; 2.*-ko- 形容詞・名詞形成接尾辞 ;3.*-no- 形容詞・名詞形成接尾辞
③Gaug-uin:1.語根不詳; 2.*wen-1「望む、愛する」

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