Diderot ディドロ(仏)
概要
仏語男名ディディエ(Didier)の指小形である古い男名Dideretに由来、「希(ノゾミ)ちゃん」の意。Didierはラdēsīderium「願望、欲求」から派生。
詳細
Pierre de Mons, dit Dideret(1488-1489年Montmiral(ドローム県))1
Guyot Dyderot(1499年、場所不明:画家)2
Thomaſſe Dideret ... Thomaſſe Didaret(16世紀後半、ブルゴーニュのどこか)3
Charles Dideret(1723年、シャンパーニュ出身の商人の息子)4

父称姓。フランスの哲学者、作家ドニ・ディドロ(Denis Diderot:1713.10.5 Langres(オート=マルヌ県)~1784.7.31 Paris)が有名。第二次世界大戦前までは、 この哲学者の出身地であるオート=マルヌ県に多い姓であった。戦後は集住地が移り変わっている。かなり珍しい姓である。 フランス語の男子名ディディエ(Didier)に指小辞etの方言形-otが接続して生じた男子名が姓と化したもの。男子名用例としては以下のものが確認できる。

cum Didereto de Bisuntio ... per me dictum Dideretum de Bisuntio(1274年頃Lyon(ローヌ県):公証人)5
domicelli Dideretus, filius condam Aynardi de Crollis(1293年Montbonnot-Saint-Martin(イゼール県))6
Dideret lo Muner(1306年Lyon)7
男名Didierはラテン語の男子名デースィーデリウス(Dēsīderius)の後裔で、Dēsīderiusは中性名詞のラdēsīderium「願望、欲求、嘆願」8を男性名詞に 性転換して形成された。その後裔の指小形に由来するDiderot姓は、差し詰め「希(ノゾミ)ちゃん」といった意味と言う事になるだろう。英desire「願望」と同語源 という事になる。

Dēsīderiusという男名は初期のキリスト教信者の間ではわりとポピュラーな名前であった。この名は信者のキリストに対する憧憬を表現する 為に、「のぞみ」という語が選ばれたと説明されている9。ドニ・ディドロの出身地であるオート=マルヌ県のラングル(Langres)を 中心とするラングル教区を治めた最初期のラングル司教聖ディディエ (Didier de Langres:在位?~264)が有名で、264年に殉教した。他にも6~7世紀に活躍した殉教聖人でヴィエンヌ(Vienne)大司教の ディディエ(607年没)、7世紀に活躍のオーセール(Auxerre)司教の ディディエ(621年没:在位614~621)、同じく7世紀カオール(Cahors) 司教の聖ディディエ(580年頃~655、在位:630~655)、フォントネル (Fontenelle)修道院の修道士でフェカン(Fécamp:セーヌ=マリティム県)修道院の創設者・修道院長を務めた聖ディディエ(700年頃没)等が有名である。
[Morlet(1997)p.334, Cellard(1983)p.71, Larchey(1880)p.133, ONC(2002)p.171]
◆ラDēsīderius(人名)←dēsīderium「願望、欲求、嘆願」(仏désir「願望」(>英desire「願望」),伊desiderio「願望」,アルバニアdëshirë「願望」)←dēsīderāre「憧れる、熱望する、不足を感じる、失う」←dē「~から離れて」(←PIE*de-,*do- 指示詞形成要素、前置詞・副詞語幹)+sīdus(語幹sīder-)「星、星座、地域、季節、天気、栄光、≪占星術用語≫(人間の健康や農作物に影響を及ぼすと 考えられた)星」←PIE*swéid-os「輝き」←*sweid-「輝く」(古高独swīdan「焼く」,リトアニアsvidùs「ピカピカの」,アヴェスタx ̌aēna-「赤々と燃えている」) 10

dēsīderāre「憧れる、熱望する」は元占星術用語であったとされ(海事用語の可能性も指摘されている11)、同じ語根から生じている ラconsīderāre「熟視する、熟考する(原義「星を注意深く観察する」)」(>英consider「熟考する」)との類推から派生・新造された単語で、本来の原義は「星の欠如を 観察する」12、或いは「自分の星から離れてその到来を待つ」13とする説、或いはラde sidere「星から」と いう句が動詞化して「星からもたらされるものを待つ」が原義とする説14など様々な解釈が有る。然しながら、古典ラテン語では dēsīderāreとconsīderāreの両動詞が本来の原義で占星術で使用された例が見られないらしい15。 一方、ラsīdusの「星」以外の語義「地域、季節、天気、栄光」は星占いから生じたものだろうし、その派生語にラsīderātiō「星位、星運、星によっておこると 考えられた病気」,sīdāre「星が麻痺を起こさせる」などの占星術用語が見られる。
1 "Inventaire sommaire des Archives départementales antérieures à 1790, Drôme."(1872)p.340
2 Jules Gauthier "Inventaire sommaire des Archives départementales antérieures à 1790. vol.1"(1883)p.106
3 Job Bouvot "Nouveau Recueil des arrests de Bourgongne."(1623)pp.300f.
4 Emmanuel Pénicaut "Faveur et pouvoir au tournant du grand siècle."(2004)p.260
5 Jean Guiraud "Les registres de Grégoire X (1272-1276): Recueil des bulles de ce pape."(1892)p.191の脚注1
6 C.-U.-J. Chevalier "Documents historiques inédits sur le Dauphiné."(1871)p.153
7 Georges Guiguf "Le Livre Des Confreres De La Trinite De Lyon."(1898)p.7
8 研究社羅和辞典p.192
9 ONC(2002)p.739
10 Pokorny(1959)p.1042
11 ロベール仏和大辞典p.737
12 Watkins(2000)p.88
13 英語語源辞典p.347
14 Douglas Harper "Online Etymology Dictionary. "(2001-2016) desire(v)項、2016年5月18日閲覧
15 英語語源辞典p.272

更新履歴:
2016年5月18日  初稿アップ
PIE語根Di-d-er-ot: 1.*de-, *do- 指示詞形成要素、前置詞・副詞語幹; 2.*sweid-¹「輝く」; 3.*-e/os- 行為名詞形成接尾辞; 4.語源不明

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