Décosse デコス(ドコス)(仏)
概要
中仏escot「スコットランド王国の住民;スコットランドの」、又は仏Écosse「スコットランド」に前置詞deが接続したもので、「スコットランド 出身」の意。
詳細
Girardus de Escoz(1172年シャンパーニュ地方)1
Mahaut de Escoce(1315年Paris)2
Joffroy d'Escoz(1326年Vaucouleurs(ムーズ県):騎士)3
Jean, fils d'Amédée Escot(1326年Moudon(スイス、ヴォー県):騎士)4
Guillaume Maillart dit Escosse(1528年Cuverville(セーヌ=マリティム県))5

地名姓。フランスの女子柔道選手リュシ・マルグリト・テオドラ・デコス(ドコス)(Lucie Marguerite Théodora Décosse:1981.8.6 Chaumont (オート=マルヌ県)~)の姓。姓の第一母音は曖昧母音ではないので、「デコス」とカナ転写するのが良い。残念ながら、Wikipedia日本版を初め ドコスの表記が多く、Google日本語版検索では"リュシ・ドコス"が6410件、"リュシ・デコス"が2790件とより正確な表記は半分に満たない (2012年6月23日現在)。中仏escot「スコットランド王国の住民;スコットランドの」6、若しくは仏Écosse「スコット ランド」に前置詞de「~から」が膠着して生じた姓で、「スコットランド出身」を意味する。

これらのフランス語語彙は後期ラテン語のScottī≪複数形≫「アイルランド人」7に遡るが、ラテン語文献中で この語は423年にブリテン島からローマ人勢力が撤退した後に、アイルランドから渡ってきてスコットランドに侵入した民族を表していた 8。イングランドのキリスト教聖職者、教会博士の聖ベーダ(Beda Venerabilis:672/673 ~735)は、Scottorum natio(逐語訳すれば「スコット人」)という表現を、ピクト人(スコットランドに居住していたケルト系先住民)の土地の一部に 住んでいたアイルランド人の意味で用いている(以下にその原文)9
Scottorum Nationem in Pictorum parte recipt.
Scotiから派生した地名である後ラScotiaは、11世紀後期にはフォース川(River Forth)以北のスコットランドのゲール語圏を指す言葉として 用いられた。

Scotiaの語源そのものは明らかでない。様々な億説があるが、どれも疑わしい。一応、以下に述べてみる。

●英国の戦史家オーマン(Charles Oman:1860-1946)の説10
ゲール語で「切り離されたもの(a man cut-off)」を意味するScuitに由来する。然し、実際には古アイルランド語のScuitは「道化者、笑い者」 11の意味しか確認されていない。

●19世紀のグラスゴーの著作家マクニーヒ(Aonghas MacCoinnich)の説10
スコットランド=ゲールsgaoth「大群、大量、群れ」12, 13に派生接尾辞-ach(複数形-aich)が接続して生じた民族名 Sgaothaichに由来する。-achという接尾辞は形容詞を形成し、実際sgaothach「群集の中の、群れの中の」12, 13という 語がある。また、マクべインによるとスコットランド=ゲールsgaoth「大群」は蜂の大群の意味としており、印欧祖語の*skei-「切る、割る」に 接尾辞が付いたo階梯形*skoi-ti-に由来するとする14。然しながらマクニーヒのこの提案は、今日まで地名研究の 主流からは省みられた事が無い。

●フリーマン(Philip Freeman)の説15
ギskótos「影」に由来するという。形の上で類似しているだけで、他には何の根拠も無い。この語は英語のshade「影」,スコットランド=ゲール sgàth「影」*と同じ印欧語根に遡る。

●スコットランド=ゲールsguit「放浪者」16由来説7
英語語源辞典に見える説。この語の語源は不明。

●古ウェールズysgthru「切る、刻む」由来説17
『Oxford Names Companion』(以下ONC)に見える。スコット人が古く自身の体に刃物の先で刺青を入れた習慣に因むとされる。然し、古ウェールズysgthru 「切る」なる語は語彙集・辞典等の文献には見えない語で、ネットの資料も殆どがONCの引用と思われる内容である。ONC以前の文献では ジョンストン(James Brown Johnston)のスコットランド地名辞典(1903)の一箇所(p.263)に、Scotの語源として掲載されているものが唯一で ある。従って、ジョンストンが提唱し始めた説なのだろう。
[Morlet(1997)p.293]
1 Auguste Longnon "Documents relatifs au comté de Champagne et de Brie, 1172-1361. vol.1"(1901)p.6
2 Hippolyte François Jules Marie Cocheris "Histoire de la ville et de tout le diocèse de Paris. vol.4" (1870)p.254
3 Société d'archéologie lorraine et du Musée historique lorrain "Mémoires de la Société d'archéologie lorraine et du Musée historique lorraine."(1884)p.250
4 Jean Gremaud "Notice historique sur la ville de Bulle."(1871)p.25
5 Auguste Lechevalier"Recherches historiques sur les communes du canton de Criquetot-l'Esneval depuis l'époque féodale: proprement dite jusqu'à la révolution."(1897)p.87
6 http://atilf.atilf.fr/gsouvay/scripts/dmfX.exe?LEM=ESCOT;SUIPRE=ESCOT;AFFICHAGE=0;XMODE=STELLa;FERMER ;MENU=menu_dmf;ISIS=isis_dmf2009.txt;OUVRIR_MENU=2;s=s05593250
7 英語語源辞典p.1231
8 http://www.etymonline.com/index.php?term=Scot
9 http://fr.wikipedia.org/wiki/%C3%89cosse
10 http://en.wikipedia.org/wiki/Etymology_of_Scotland
11 http://www.dil.ie/results-list.asp?Fuzzy=0&scount=2&searchtext=xmlid%20contains%20scuit&sortField= ID&sortDIR=65602&respage=0&resperpage=10&bhcp=1
12 Macleod(1831)p.505
13 http://www.mackinnon.me.uk/Faclair/S.html
14 MacBain(1911)p.311
15 http://en.wikipedia.org/wiki/Scoti
16 Macleod(1831)p.518
17 ONC(2002)p.555、http://www.hebrewletters.com/item.cfm?itemid=1411

執筆記録:
2012年6月23日  初稿アップ
PIE語根D-écosse: 1.*de-, *do- 指示詞形成要素、前置詞・副詞語幹; 2.語源不明

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