Daladier ダラディエ(仏)
概要
古プロヴァンスaladern「クロウメモドキ属の低木」より。地形・地名に因む。又この植物が正義の象徴とされたので、「公正な人物」を表した場合も有り得る。
詳細
居住地姓、地名姓、ニックネーム姓。フランスの政治家エドゥアール・ダラディエ(Édouard Daladier:1884.6.18 Carpentras(ヴォークリューズ県)~1970.10.10 Paris)の姓。極めて珍しい姓で、1891~1915年の記録ではフランス全土で12件見え、その内3分の2の8件がヴォークリューズ県の登録。政治家ダラディエも 同県の出身で、この県に特徴的な苗字である。同源異綴の姓にダライエ(D'alayer:ヴォークリューズ県)、ダラドゥルヌ(Daladerne:ピレネー=ゾリアンタル県) が有るが、ダラディエ姓より更に稀少。いずれも、古い記録では全く見られない。

古プロヴァンスaladern「クロウメモドキ属の低木(alaterne)」1に由来し、その木の灌木付近の住人が名乗り出した姓である。 語頭のD-は前置詞de「~から、~の」が膠着したもの。現在のプロヴァンス語の辞書では、aladerとか音位転換形のdarada,daradel,daradeouがこの意味の単語として掲載されている2。 他にもオック語諸方言の同語源の対応形に、ローヌ川流域方言(仏r(h)odanien:アルルやアヴィニョンで話される)(d)aladèr,darader,daradè,マルセイユ方言 daradeu,taradeu,ラングドック方言aradel,daradel,alavèr等の語形が存在するが3、やはりいずれも姓としては古い記録には見えない。 この様な木の灌木は、南仏のローヌ川河口のデルタ地帯(カマルグ(Camargue)地方)では、別語源の言葉ではoulivastreとかabondeとも呼ばれていた3。 又、同語源の南仏の以下の地名に由来している可能性も有る。

●エロー県ロデーヴ(Lodève)郡ロデーヴ小郡ムレゼ・ボセル(Moulès-et-Baucels)村の小地名レ・ザラデ(Les Aladers)

●オード県リムー(Limoux)郡リムー小郡サン=ポリカルプ(Saint-Polycarpe)村の小地名レ・ザラデ(Les Aladers)4(詳細な場所不明)

●オード県リムー郡リムー小郡ラデルン・シュル・ロケ(Ladern-sur-Lauquet)
in Aladerico(981年)4
Aladerno(1150年)4
Ladeir(1386年)4
Aladern(1532年)4

又、この植物の灌木は中世のフランスでは「正義」の象徴と見做されていた為、元々は「公正な人物」を表した渾名に由来している可能性も指摘されている 5
[Morlet(1997)p.267, Frédéric Mistral "Lou trésor dóu Felibrige: A-F."(1879)p.63, ONC(2002)p.18]
◆古プロヴァンスaladern「クロウメモドキ属の低木」←ラalaternus「常緑低木」(伊alaterno,仏alaterne「クロウメモドキ属の低木」,西(a)ladierno「クロウメモドキ科の植物」 ,サルデーニャ(a)laderru,alaterru,alaverru,aliderru)←?。語源不明。

一説にラalica「ひき割り麦」と同根で、二番目の-a-は方言音に因むとする説が有るが6、形が少し似ている単語に語源を求めただけで、他には何の 根拠も無い。
1 Levy(1909)p.14
2 S. J. Honnorat "Dictionnaire provençal-français; ou, Dictionnaire de la langue d'oc. vol.1"(1846)p.636
3 Yvon Lapaquellerie "Édouard Daladier."(1940)p.52
4 Nègre(1996)p.1219
5 ONC(2002)p.18
6 Walde(1910)p.23

更新履歴:
2016年5月6日  初稿アップ
PIE語根D-aladier: 1.*de-, *do- 指示詞形成要素、前置詞・副詞語幹; 2.語源不明

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