Courbet クールベ(仏)
概要
①古仏courbet,corbet「鋭く湾曲した鎌」に由来し、「鉈鎌鍛冶屋」を意味する。
②古仏courber「曲げる」の過去分詞courbé「曲った」に由来し、「背虫の人、川・道の湾曲部の住人」を意味する。
③古仏corbet「烏」に由来する男子名・渾名から。
詳細
Robertus Corbet(1204年Saint-Pierre-sur-Dives(カルヴァドス県))1
Guillelmo dicto Courbet(1277年Croisy-sur-Eure(ウール県))2
Guigone de Nuce dicto Corbet de Anessiaco Veteri(1315年Annecy(オート=サヴォワ県))3
Jehans Courbès(1362年Ath(ベルギー、エノー州))4
Jehans Courbes(1426年Soignies(ベルギー、エノー州))4Jehan Courbet(1426年Soignies)4
Jean Corbez(1699年Namur(ベルギー、ナミュール州))5

ニックネーム姓。この姓の分布地はフランス語圏に四か所存在する。ひとつはノール県、パ=ド=カレー県、ソンム県等のフランス北端部からベルギーに かけての分布地。ひとつは仏西部のドゥー県を中心とする分布地。ひとつは仏南部ヴォークリューズ県を中心とする分布地。ひとつは仏西部の メーヌ=エ=ロワール県を中心とする分布地。フランスの画家ギュスターヴ・クールベ(Gustave Courbet: 1819.6.10 Ornans(ドゥー県)~1877.12.31 La-Tour-de-Peilz(スイス、ヴォー州))が有名。語源は様々な可能性が考えられる。

①職業姓。古仏courbet,corbet「鋭く湾曲した鎌、木を切るための鉄製鉈鎌」6に由来する可能性が有る。恐らく、 主に「鉈鎌」を作っていた鍛冶屋が名乗りだしたのであろう。1390年に初出の語で、"Un courbet ou sarpe, dont on coppe les bois."「木を 切る鉈鎌か鎌」とある6。ゴドフロワによると、この語はスイスのフランス語圏のヌーシャテルからフリブールに かけての一帯で、今でも「剪定用ナイフ」の意味で用いられているとのこと。
[Germain et Herbillon(2007)p.267]

②ニックネーム姓、居住地姓。古仏courber「曲げる」7の過去分詞courbé「曲った」7の 綴り字上の異綴に由来し、「背虫の男、腰を曲げて歩く人」を意味する渾名に由来する可能性が有る。或いは、「川や道の曲折」「曲った形の土地」の 近くの住人か、その意味で命名された小地名に由来している可能性もある。
[Morlet(1997)p.248, Cellard(1983)p.120, Tosti(1997~)c11項]

③父称姓、ニックネーム姓。古仏corbet「烏」6を語源とする男子名・渾名に由来。1580年スタヴロ(Stavelot (ベルギー、リエージュ州))でCorbet des Taillesという人名の記録が有り5、ファーストネームとして 用いられている。渾名としても有り得、これらが世襲化し姓となったものだろう。
[Germain et Herbillon(2007)p.261, Tosti(1997~)c11項]
◆古仏courbet,corbet「鋭く湾曲した鎌」←古仏courber「曲げる」(1170年頃初出)←俗ラ*curbare「曲げる」←ラcurvāre「曲げる」(伊curvare「曲げる」 ,プロヴァンスcourbar「曲げる」,西,葡curvar「曲げる」)←curvus「曲った、曲がりくねった」←PIE*kur-wo-(異形+形容詞形成接尾辞)← *(s)ker-「曲る、曲げる」(ギkurtós「曲った」,ラcircus「円弧、円形競技場、競技会」,リトアニアkreivas「曲った」,露krivój「曲った」) 8

ラcurvus「曲った」とPIE語根*(s)ker-「曲る、曲げる」の間の再建派生形PIE*kur-wo-はワトキンズ(Calvert Watkins)による。私は 寧ろゼロ階梯形に形容詞形成接尾辞-wo-が接続した*kr̥-wós(主格形)に由来しているのではないかと思う。接尾辞-wo-は本来動詞語根に 接続し、その動詞の完了能動分詞語幹を形成する。常に接尾辞部分の語幹形成母音にアクセントが有るため、語根母音は 弱化してゼロとなるので、PIE*kr̥-wósは論理的にあり得る形態である(そこから露krivójは規則的に導かれる)。完了能動分詞*kr̥-wósの原義は「曲げた」と考えられる。 ここから形容詞に転じた。成節ソナントのr̥はラテン語では正則的には-or-に発達するが、後続の接尾辞部分の子音-w-の影響によって 同化して*corvusではなくcurvusになったのではないかと思う。また同じ流音のPIEの成節ソナントl̥はラテン語で-ol-か-ul-に 発達するので、PIE*r̥がラテン語で-ur-に転じる場合もあり得るのではないかと思う。ワトキンズはPIE*kur-wo-を"異形に接尾辞が接続した形" と説明しているが、語根*(s)ker-「曲る、曲げる」の異形*kur-に成立上の説得力が無ければゼロ階梯由来説の方がマシではないかと 素人目には思えるのだが・・・。という訳であくまで素人の私が勝手に考えた事なので、取り敢えずはワトキンズの説に従った。
1 "Mémoires de la Société des antiquaires de Normandie. serie.2 vol.6"(1852)p.15
2 ibid. p.223
3 "Memoires et Documents Publies par la Societe D'Histoire et D'Arceologie. vol.39"(1978)p.510の脚注1
4 Germain et Herbillon(2007)p.267
5 ibid. p.261
6 Godefroy(1880-1895)vol.2 p.299
7 http://www.cnrtl.fr/definition/courber
8 英語語源辞典p.311、Pokorny(1959)p.935、Watkins(2000)p.78、Buck(1949)p.543

更新履歴:
2015年11月20日  初稿アップ
PIE語根Cour-b-et ①:1.*(s)ker-³「回る、曲がる」; 2.*-wo- 形容詞形成接尾辞; 3.語源不明
②:1.*(s)ker-³「回る、曲がる」; 2.*-wo- 形容詞形成接尾辞; 3.*-to- 分詞・形容詞・名詞形成接尾辞
③:1.*ker-² 高い音・鳥の鳴き声を表す擬音語; 2.*-wo- 形容詞形成接尾辞; 3.語源不明

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