フランスのファッションデザイナー、ココ・シャネル(Gabrielle Bonheur "Coco" Chanel：1883.10.19 Saumur(メーヌ=エ=ロワール県)～1971.1.10 Paris)の姓。
英国のジャーナリスト、
リサ・チェイニー(Lisa Chaney)著の
彼女の伝記『ココ・シャネル～その知られざる生涯～(Coco Chanel: An Intimate Life)』(2011)に先祖について言及有り。ココの父方直系の
曽祖父はジョゼフ・シャネル(Joseph Chanel)といい、1792年フランス南部ガール県アレス(Alès)郡の村
ポンテイユ(Ponteils-et-Brésis)に生まれたとある。伝記ではこれ以上古い先祖を示していないが、ネットの家系サイトで調べるとジョゼフから
更に５代遡った
アントワーヌ・シャネル(Anthoine Chanel)
なる1583～1643年まで生存が確認されている人物まで辿る事が出来る。だが、ジョゼフよりも古い先祖は５人とも記録地が明らかでなく、ココ・シャネルの
血統の出自・発祥地は不詳。ココ・シャネル自身の出生時の姓がChasnelともされるが、これは語源的なものなのか、単なる綴り字上の異体によるものかは
解らなかった。
シャネル(Chanel)姓はフランスでは東部のアン県に集住し、1891～1915年の統計では全国525件のうち、同県に284件見え、更に西隣のローヌ県に74件存し、
非常に地域特徴の強い姓である事が分かる。アン県の中では、16～18世紀初頭にかけては
マルボ(Marboz)村に多く見られる
1。又、別の史料によれば、同村では本姓は1445年に初出で、更に
サン=トリヴィエ=シュル=モワニャン(Saint-Trivier
-sur-Moignans)村に1150年までには出現しているとある
2。
又、北東部のヴォージュ県も34件の分布が見え、距離上アン県分布の同姓とは別起源と考えられ、恐らく
後述する②に由来するものと思われる。現在の分布も、人の移動により分布特徴が薄まってはいるものの、基本的には先に挙げた状況が依然続いている。
ココ・シャネルの曽祖父の誕生地ポンテイユ村が属すガール県は891～1915年の統計では18件で、第４位である。比較的多いが、アン県の分布が流出した
ものなのか、別の発祥なのか、ココ・シャネルの先祖の足跡がはっきりしないので、どちらなのか判断しがたい。
Robert Chanel(1316年Paris)
3
Maistre Jehan de le Canel(1389年Senlis(ワーズ県))
4
Jehan Chaneau(1416-1420年Dijon(コート=ドール県))
5
maistre Chicart de le Canel(1438年Senlis(ワーズ県)：王の顧問)
6
Étienne Chanel(1443年Marboz(アン県))
7
Antoine Cannel(1507年Brutelles(ソンム県))
8
Philippes Cannel(1545年Soulles(マンシュ県))
9
①古仏chanel｢港の入り口にある天然か人工の水路、管、樋、軒樋｣
10に由来し、｢運河や水路の近くの住人｣を意味する。この
古仏語の語彙の本来の模範的語形はchenelで、chanelは語源となったラテン語のcanālis｢運河、水路、樋、管｣の影響から転訛した形。
[Morlet(1997)p.198, Cellard(1983)p.237, Larchey(1880)p.94, ONC(2002)p.124]
Regnault de Chasnel(1425年、アルザス=ロレーヌのどこか)
11
Jehan Chasnel(1522年Laveline-du-Houx(ヴォージュ県))
12
②地名姓。上掲の古姓の分布状況から、フランス北東部オート=マルヌ県サン=ディジエ(Saint-Dizier)郡ジョワンヴィル(Joinville)小郡の村
ブールヴィル(Beurville)に存した
集落の名シャネ(Chaney)
13, 14(現在廃村、詳細な場所不明)に由来すると考えられる(マルピコス説)。この地名は1440年に
Chasnel13と綴られていた。地名は古仏chesneel, kesneel｢楢林、樫林｣
15に由来するもの
ではないかと思うが(マルピコス説)、地名の古い用例が上掲以外に確認出来ず、またこの地名に言及している書物が５冊も無いので識者の間で地名の由来に
ついて発言も無く、良く解らない。
◆古仏chanel, chenel｢運河、水路、管、樋、軒樋｣←ラcanālis(i語幹男性名詞)｢運河、水路、樋、管｣(カタルーニャ,西canal｢運河、チャンネル｣,葡calha｢樋｣,
伊canale｢運河、水路、海峡、チャンネル｣)(変形)←*cannālis←canna｢葦｣←ギkánna｢葦｣←セム語(アラムqany｢葦、茎、管｣,ヘブライqānéʰ｢葦｣,アラビアqanā́ʰ｢葦、管、槍｣,アッカドqanu,
ウガリトqn(m)｢葦、柄、(?)上腕骨｣,フェニキアqn'｢葦｣)←シュメールgin｢葦｣
16。
1 http://une-famille-bressane.fr/search/?sn=chanel&gv=&pl=&dd=0&ddd=0&tr=0&s=0&o=sn&d=0
2 "Notes sur l'ancienneté des familles du département de l'Ain."(1878)p.38
3 Victor Calliat "Histoire de l'hotel de ville de Paris suivie d'un essai sur l'ancien gouvernement municipal
de cette ville."(1846)p.174
4 Société d'histoire et d'archéologie de Senlis "Comptes Rendus et Mémoires."(1880)p.88
5 Michel Mollat "Comptes généraux de l'État bourguignon entre 1416 et 1420. vol.5"(1966)p.480
6 Louis Carolus-Barré "Etudes et documents sur l'Ile-de-France et la Picardie au Moyen Age: Senlis et le
Valois."(1996)p.176
7 M. J. Brossard "Inventaire sommaire des Archives départementales antérieures à 1790: Ain ."(1884)p.64
8 "Mémoires in 4,̊: documents inédits concernant la province. vol.1"(1845)p.390
9 Société de l'histoire du protestantisme français "Bulletin...: Études, documents, chronique littéraire. vol.36"(1887)p.255
10 Godefroy(1880-1895)vol.9 p.66
11 Jean Dumont "Corps universel diplomatique du droit des gens, contenant un recueil des tritez."(1726)p.182
12 "Mémoires de la Société d'archéologie lorraine et du Musée historique lorraine."(1877)p.440
13 "Revue d'Ardenne et d'Argonne. vol.15"(1908)p.48
14 Jean-Baptiste Carnandet "Géographie historique industrielle et statistique du département de la Haute-Marne."(1860)p.573
15 Godefroy(1880-1895)vol.2 p.107
16 英語語源辞典p.191, Chantraine(1968)p.493、A. Murtonen "Hebrew in Its West Semitic Setting."(1986)p.380
更新履歴:
2016年6月9日 初稿アップ