Conrard le bombardier(1469年モーゼル県のどこか)1 Jehan Bombardier(1503年Senade(ヴォージュ県アドル(Hadol)の直ぐ南))2 Gilson le Bombardier(1520年Châtelet(ベルギー、エノー州))3 Jacques le Bombardier(1529年リヨン(Lyon))4
職業姓。フランス発祥。フランス語の発音はボンバルディェに近い。フランスでの分布は、北東部ロレーヌ地方のモーゼル(Moselle)県と
ムルト=エ=モーゼル(Meurthe et Moselle)県に集中している。全国67件確認されるこの姓が、両県でそれぞれ25件、21件記録されている
(1891-1915年の調査)。
射石砲の製作工房は15世紀にはブルージュやトゥルネー(Tournai)を始めとするフランドル地方や、メス(Metz)等のフランス北東部ロレーヌ
地方に多かった。射石砲は巨大で、移動に多大な労力が費やされる為、戦場となりやすい国境付近に工房が集中したのであろう。
既に見たようにジョゼフ・アーマンド・ボンバルディアの祖先も、他でもないフランドルの出身であった。彼の祖先も射石砲
の製造に携わってきた職人であったに違いない。上掲の姓の古形一覧に挙げたConrard le bombardierという人物も、正にロレーヌ地方の
モーゼル県の人物である。当時の記録によれば、"Pour paier plusieurs ovriers qui ont ovré à faire bombarde."
という一文の後に列挙する5人の人物の内の一人である。この一文は1469年当時の綴り字・文法で書かれている為、ちゃんとした訳が
出来ないけれども、この5人が射石砲(bombarde)の製造職人であることが伺える。正しく、生業としている職業が姓としても記録されている例である。
又、Estiene Anthoneという人物が1478年にヴァランス(Valence:仏南東部ドローム県)で記録されており、職業は"ghorelier et
bombardeur"とある16。この人物は軛(クビキ)17製造職人(ghorelier)と射石砲
製造職人(bombardeur)を同時にこなしていたことになる。15世紀末のフランスでは、二輪車に大砲を乗せて馬に牽引させて運ぶ技術が
発達した。この技術革新と、Estiene Anthoneなる人物が軛の様な荷車の部品と大砲の一種を両方製造していた事実は無縁ではないだろう。
尚、現代フランス語のbombardierには、歴史用語として「砲兵、砲手」の意があるが(ロベール仏和大辞典p.285)、今まで見てきた通り、
その使用者よりも製造者を表した姓である蓋然性が高い。また、現在のフランス語のbombardeには、「(ブルターニュ地方で使われる)管楽器」
の意があり、ハーパー(Douglas Harper)のウェブ英語語源辞典によれば、この意味はフランスでは14世紀後半に初めて現れたとしている
18。「管楽器奏者、管楽器職人」の意の可能性もあるが、姓の分布や古い記録からすると根拠が薄いだろう
(「袖」の語義由来も同様)。姓の原義を「(爆撃機の)爆撃手」とする説も存在するが19、更に有り得そうもない。
[Morlet(1997)p.119,Tosti(1997~)b6,苅部(2011)p.34]
◆古仏bombarde「射石砲、臼砲、投石器」←中ラbombarda「管楽器」(伊bombarda「射石砲、臼砲、管楽器の一種」)←ラbombus「鈍い音←ギbómbos
「ブーンという音を立てること、(蜂などの)ブンブンいう音」←PIE*bamb-擬音語20。中ラbombardaの語尾-ardaは
ゲルマン*χarðuz「堅い、強い」を第二要素に持つ男子名(例えば英Richardや独Reinhard、伊Leonardo)に倣って、抽出・転用したものでは
ないかと自分は思う。この接尾辞は、「過度に~する者」のニュアンスを持つ名詞を派生する。
1 Société d'archéologie et d'histoire de la Moselle, Metz "Mémoires de la Société d'Archéologie et d'Histoire
de la Moselle."(1860)p.188 2 Chapellier et Gley(1882)p.176 3 Germain(2006)p.178 4 Guigue(1886)p.367 5 http://townshipsheritage.com/article/joseph-armand-bombardier-1907-1964-and-ski-doo 6 http://www.nosorigines.qc.ca/genealogielistfirstname.aspx?Family=Bombardier_5227&lng=en 7 http://www.nosorigines.qc.ca/genealogielistfirstname.aspx?ancestor=3&Family=Bombardier_5227&lng=en 8 http://www.nosorigines.qc.ca/genealogielistfirstname.aspx?ancestor=2&Family=Bombardier_5227&lng=en 9 http://www.nosorigines.qc.ca/genealogielistfirstname.aspx?ancestor=4&Family=Bombardier_5227&lng=en 10 http://familytreemaker.genealogy.com/users/s/c/h/Linda-L-Schlarb/GENE2-0023.html 11 http://en.allexperts.com/q/French-Canadian-Culture-2842/Immigration.htm 12 Godefroy(1880-1902)vol.1 p.678 13 英語語源辞典p.140 また、1596年初出の「皮製水差し」の語義を掲載。 14 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%84%E7%9F%B3%E7%A0%B2、歴史学研究会『歴史学研究』vol.785(2004)p.20、
"Encyclopaedia universalis. vol.18"(1974)p.234 次のサイトも「射石砲」に関して極めて詳しい(http://www.clham.org/050572.htm)。
フランドル地方の中世末期の射石砲の工房が存在した場所を示す地図もある。 15 http://en.wikipedia.org/wiki/Mons_Meg 16 Godefroy(1880-1902)vol.1 p.678 17 「軛」は車の轅(ナガエ)の先につけて、牛をつなげる為の横木。 18 http://www.etymonline.com/index.php?term=bombard 19 苅部(2011)p.34 20 英語語源辞典p.140、ロベール仏和大辞典p.284
執筆記録:
2011年7月20日 初稿アップ