Bizet ビゼー(仏)
概要
中仏pain biset「麩(フスマ)入りの小さいブラウンブレッド」の形容詞biset「小さい灰褐色の」に由来し、その様なパンの職人か好物にしていた人を表す姓か。
詳細
Colart Biset(1305-1306年)=Colart Bizet(1311-1311年)1
Jehan Bizet de Barbonne(1367年Troyes)2
Jacomart Bizeet(1378年Ronse(ベルギー、オースト=フランデレン州))3
Henriet Biset(1394年Rouen(セーヌ=マリティム県))4
Pierre Bizet, dict Miraicle(1552年Verne(ドゥー県))5
Hercule de Flacourt, dit Bizet(1572年Orlean(ロワレ県))6

ニックネーム姓、職業性。フランスの作曲家ジョルジュ・ビゼー(Georges Bizet:1838.10.25 Paris~ 1875.6.3 Bougival(イヴリーヌ県))の姓。フランス内の分布は北部に完全に偏っており、 特にノルマンディーに多い。1891~1915年の統計では、全国808件のBizet姓のうち、パリに76件、セーヌ=マリティム県に72件、ワーズ県に66件、パ=ド=カレー県に 65件、ヴァンデー県に52件、シェール県に48件、ノール県にとマンシュ県に各41件で、パリ、ヴァンデー、シェール以外は全てノルマンディーである。 同源のビゼー(Biset)姓は珍しく、同時期の統計で全国59件、サヴォワ県に13件、パ=ド=カレー県に10件、ノール県に9件という内訳で、 ノルマンディーに特徴的な苗字。

古仏biset,bizet「(パンが)小さい灰褐色の」7という形容詞に由来する。「麩(フスマ)入りの小さい灰褐色のブラウンブレッド」を意味する 中世フランス語pain biset7に専ら用いられる語彙で、その様なパンのを作っていた職人か、好物にしていた人物に与えられた渾名に 由来すると考えられる。孫引きになるが、ゴドフロワの古フランス語辞典によると、フランスの古語辞典を編集したサント=パレー(Jean-Baptiste de la Curne de Sainte-Palaye:1697~1781)の証言として、この単語が同じ意味でノルマンディーで今も使われていると指摘している。また、商業用語として名詞biset 「大きな灰褐色の布地(grosse etoffé bise)」が用いられているとも、書いてある7。従って、この様な生地で作られた服をいつも 来ていた人物の姓の可能性も有り得る。

参考までに、「(パンが)小さい灰褐色の」の意味での単語の古い用例を挙げておく。

"Paraillement le pain bizet demeurera fixé à 2 deniers la livre de 24 onces 1/2 quand le blé vaudre 12 sols la mine."(1521年ノルマンディー) 8
「並行して小ブラウンブレッドは24二分の一オンスあたり2ドゥニエの値段設定が維持されよう(?)」(良く解らない。sols la mineは「岩塩」の事か?)

"Ung pain biset pour ses despens."(1452年Conches9)7
「彼の免除の為に小ブラウンブレッド(?)」

形容詞bisetは仏bis(e)「灰褐色の」の指小形に由来する。従って「黒髪の人」を意味する姓の可能性もある。また余談だが、仏bis(e)「灰褐色の」の方言形に由来する形が 仏bege「ベージュ色の」であり、即ち日本語にもなっている「ベージュ」と同語源なのだった。
[Morlet(1997)p.110,Germain et Herbillon(2007)p.168,ONC(2002)p.69]
◆仏bis(e)「灰褐色の」←俗ラ*bysseus「綿のような灰色の」(フランコ=プロヴァンスbézho,ロマンシュbesch,伊bigio「灰色の、暗褐色の」,カタルーニャbis) ←ラbyssus「上質の亜麻」←ギbússos「上等の綿布・リンネル、綿の手織布地」←(?)セム語(ヘブライ,アラムbūṣ「布地(toile)」,フェニキアbṣ)10
他にも西bazo「黄褐色の」もこの対応に含ませる見解があるが、母音が合わず疑わしい11。 仏bis(e)「灰褐色の」について、他にもラbombyx「蚕、絹」(ギbômbux「蚕、絹」の借用)の記録にない形容詞形の後ラ*bombyceus「絹の」の語頭シラブルがbon「良い」と誤解されて失われた形に由来する とみる説や12、副詞のラbis「二度」から派生したと想定する俗ラ*biseus「二つの部分からなる、純粋でない」から生じたとする説もあるが 12、疑問。また、Oxford Names Companionはゲルマン語起源を示唆するが、似た語形の単語がゲルマン語に見えず、憶測の域を出ない 13
1 Germain et Herbillon(2007)p.168
2 Anne-Francois Arnaud "Voyage archeologique et pittoresque dans le departement de l'Aube et dans l'ancien diocèse de Troyes."(1837)p.12
3 http://belgian-surnames-origin-meaning.skynetblogs.be/index-7.html
4 Amable Floquet "Histoire du privilège de saint Romain, en vertu duquel. vol.2"(1833)p.621
5 Paul Delsalle "La Franche-Comté au temps de Charles Quint."(2004)p.183
6 Gaston Vignat "Cartulaire de chapitre de Saint-Avit d'Orléans."(1886)p.xxxv
7 Godefroy(1880-1902)vol.1 p.652
8 E. Cagniard "Revue de la Normandie. vol.9"(1869)p.118
9 コンシュ(Conches)という地名はフランスに二か所ある。1.コンシュ=アン=ウシュ(Conches-en-Ouche)(ノルマンディー、ウール県エヴルー(Évreux)郡);2. コンシュ=シュル=ゴンドワール(Conches-sur-Gondoire)(イール=ド=フランス、セーヌ=エ=マルヌ県トルスィ(Torcy)郡)。どちらのコンシュか不明。
10 http://en.wiktionary.org/wiki/beige、Boisacq(1916)p.138、Chantraine(1968)p.202
11 http://www.etimo.it/?term=bigio&find=Cerca
12 ロベール仏話題辞典p.270
13 ONC(2002)p.69

執筆記録:
2014年1月3日  初稿アップ
PIE語根Biz-et:1.語源不明;2.語源不明

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