①古いドイツ人男名Bado、Badin(←古ザクセン*badu,古高独*batu「戦い」)、Bito(←古高独bītan「待つ、望む」,bitten「願う、祈る」)に由来。
②仏南部の小地名ビドン(Bidon)に由来。地名は「Beto(人名:←古高独*batu「戦い」)の地」の意。
③英姓バトン(Button)の異形。「ボタン作り職人」の意。
アメリカの政治家ジョセフ・ロビネット "ジョー" バイデン・ジュニア(Joseph Robinette "Joe" Biden, Jr.:1942.11.2 Scranton
(ペンシルベニア州)~)の姓。父方の直系の先祖は5代前のウィリアム(William Biden)にまでしか遡る事が出来ない。ウィリアムは1790~1800
年の間にイングランドのどこかで生まれ、後に渡米、1822年2月にメアリー・エルキンズ(Mary Elkins:1799(?)米メリーランド州~1863(?))と
いう女性と結婚し、1840~1850年の間に恐らくメリーランド州ボルティモアで亡くなっている
1, 2。Wikipedia
日本語版のジョー・バイデン項では、"バイデン家自体はロンドンデリーに起源を持つ家系である"とあるが、ジョー・バイデンの母親の先祖の
出自がロンドンデリーとWikipedia英語版にはある。母親の旧姓はFinneganというアイルランド姓であり、家系サイトでも母の先祖がアイルランド
出自と指摘されているので(但し、ロンドンデリー出自という情報は確認出来ない)、恐らくWikipedia日本語版の記述は誤りと思われる。
バイデン家がアイルランド出自とする情報は、雑誌『アイリッシュ・アメリカ(Irish America)』のジョー・バイデン(もしくは、その父)との
対談によると
3、バイデンの先祖がそう主張していたものらしいが、主張者本人がその事実を確認していた訳ではない
4。この対談は以下のように続く。([]内は引用者マルピコスの補足)
アイリッシュ・アメリカ記者:"[Bidenという]名前がとても珍しいです。"
バイデン:"どこでも一般的ではありません。私はこの件に関するご指摘を手紙でいくつか受け取っております。例えばですね、
もう退官されましたが、70年代にインドに赴任していたある英国外交官の方が、もし私たちに関係があるのなら知らせてほしいと、
こんな風に言ってきています。彼は自分の先祖を1668年に英リヴァプールに住んでいたジョゼフ・バイデン(Joseph Biden)と
エミリー・バイデン(Emily Biden)まで遡りました。彼はこの二人はドイツかフランスから移住してきたユグノーではないかと考えています。"
加えて、バイデン姓が(北)アイルランドには全く分布せず、1881年の統計ではイングランド南端の
ウェスト・サセックスやワイト島(Isle of Wight)に集住している点からも、本姓がアイルランド系ではない事は明白である。手持ちの
英国の苗字辞典にはBiden姓や近似語形の姓は掲載されておらず、語源は判然としない。一応、ユグノー系とする説と、ネットに
イングランド系説もあるので、両者を挙げておく。ユグノー系説の語源は①と②で、筆者マルピコスの考えによる。Biden姓は
20世紀末の統計でパリ周辺に2件確認できるが、英国からの移住者の可能性が有る。というのも、それ以前の19世紀末から20世紀中葉の
4回の統計には一度も現れていない為。①の姓古形例に挙げるように、古くはフランスにもBiden姓が存在したが、廃れたと見た方が無難と
思われる。
Robert Byden(1343年Eu(セーヌ=マリティム県))
5
Jean Biden(1509年Saint-Vaast-en-Cambrésis(ノール県))
6
①父称姓。古いドイツ語の男子名バド(Bado)
7の属格形Badenに由来する。或いは、Badoに更に指小辞-īnが接続して
生まれた愛称形Badin
8に由来する。人名はいずれも、古ザクセン*badu「戦い」
9,古高独
*batu「戦い」
10を第一要素に持つ様々な二要素複合男名の短縮形。第一母音のa→iの変化は英kitten「子猫」、シラク
(Chirac)参照。或いは、古高独bītan「耐える、待つ、待ちわびる、望む」
10、或いは古高独bitten
「願う、祈る」
10を第一要素にとる様々な二要素複合男名の短縮形Bito
11の属格形に
由来する。どちらも音韻的に有り得る。
cf.
バドック(Baddock)
[Tosti (1997~)b6]
Jacques Bidon(1401年Bagnols-sur-Cèze(ガール県))
12
Michel Bidon(1536年Pont-Saint-Esprit(ガール県))
13
Claude de Bidon(1583年Bagnols-sur-Cèze)
14
②地名姓。仏南部のビドン(Bidon)姓に由来する可能性あり。姓は仏南部アルデシュ県プリヴァ(Privas)郡ブール・サン・アンデオル
(Bourg-Saint-Andéol)小郡の村ビドン(Bidon)に由来する。
Bido(1205年)
15
Bidonis(1320年)
15
ネグルはゲルマン人の男子名Beto
7に由来するとみる
15。現名の語末-nはn語幹男性名詞の
属格語尾なので、地名は「Betoの土地」の意。人名は古高独*batu「戦い」に由来。或いは古高独の男名Bitoのフランク語対応形*Bidoの属格形に
由来し、「Bidoの土地」の意。いずれにしても、①と同源。
William of Bitton(1264年Bath and Wells教区(ほぼサマーセット州に相当))
16
③職業姓。イングランド系のバトン(Button)姓の異形とする説がネットにある
16。中英bot(o)un,butun,boten,
button「ボタン、蕾」
17に由来し、「ボタン製造職人」を意味する。
[Reaney(1995)p.77]
1 http://www.geni.com/people/William-Biden/6000000010310219217
2 http://www.wargs.com/political/biden.html
3 "Irish America. vol.2"(1986)p.24
4 Google Book検索によって見つけた情報だが、スニペット検索のため一部しか見えず、対談相手がジョー・バイデンなのかその父なのか
どちらなのか判別できない。このため、バイデン家がアイルランド出自と主張していた人物が誰なのか特定不能である。原文で確認できる部分では、
"his father would insist that Biden was Irish, but he could never sustain that. He could never know that for sure."
[話の内容からして取材相手、つまり某バイデン氏の発言]とあるが、ここで用いられている"he"が誰なのか分からないのである。
もし、これを喋ったのがジョー・バイデンなら主張者はジョーの祖父、ジョー・バイデンの父なら主張者はジョーの曾祖父となる。
他の見える部分から想像するに、どうも対談相手はジョー本人のようだが確証が持てない。
5 A. Lestringant, A. Picard "Le livre rouge d'Eu, 1151-1454 / avec introduction, notes et table par
l'abbé A. Legris."(1911)p.190
6 http://de.geneanet.org/search/?name=BIDEN&country=FRA®ion=NPC&place=Saint-Vaast-en-Cambr%E9sis%2C59547&ressource=arbre
7 Förstemann(1966)sp.196
8 ibid. p.198
9 http://www.koeblergerhard.de/as/as_b.html
10 http://www.koeblergerhard.de/ahd/ahd_b.html
11 脚注7の文献sp.256
12 Yannick Chassin du Guerny "Inventaire du notariat de Bagnols (Gard)."p.873
13 ibid. p.482
14 ibid. p.184
15 Nègre(1996)p.831
16 https://www.houseofnames.com/Biden-history?A=54323-292
17 MED B項 vol.5 p.1078
更新履歴:
2014年12月18日 初稿アップ