概要
職業姓。「えんどう豆のさや」を意味し、恐らく「エンドウマメ商人」を表わす。
詳細
Richard Pisecod(1221年)1,
John Pesegod(=Pesecod)(1317年)1,
John Pasegude(1441年Yorkshire)1
職業姓。Peascod姓の異形。中英pese-cod「エンドウの莢」(>英peas(e)cod)に由来し、恐らくは
「エンドウマメ商人」を表わす姓。中英pese「エンドウマメ」+中英cod「袋」よりなる。「hot peascodsの露天商」
の意とするサイトもあるが2、"hot peascod"の意味は不明。まさかとは思うが、
茹でたエンドウのことを言っているのか。1502年のヨークのエリザベスの国王手元金支出簿(Privy Purse Expenses)
3に次のように記録されている。
"Item, to wif of William Greneweye for bringing a present of peesecoddes to the Quene, 11s"
「同じく、女王へ贈り物としてエンドウの莢(peesecoddes)を贈る為に、ウィリアム・グリーンウェイの妻に」
(最後の11sが何なのか不明。エンドウの莢が11個という意味なのか、それを買ったときの代金を意味しているのか
・・・。)
上記の16世紀初頭の文では、エンドウの莢が売買されており、しかも贈り物となっている。ここではウィリアム・
グリーンウェイという人物の妻が商っている事が窺えるが(彼等の苗字Greneweyeは「緑に覆われた道」の意の
居住地姓であり、農民であろう)、この様な人達が「エンドウの莢」という姓を名乗ったのかもしれない。
。
中世ヨーロッパではエンドウ豆はレンズ豆、ソラマメと共に、ダイエット食品としてもてはやされていた。
現在欧州では、未成熟な状態で採取したもの(グリーンピース)を食すのが主流だが、これは1600~1700年頃に
始まるから、姓の謂れとは関係が無い。また余談になるが、この姓の第二要素はチェダー・チーズのチェダー
(Cheddar)と同語源である。[Reaney(1995)p.343]
◆中英pese←古英peose,pise←後ラpisa(女性形)←ラpisum(中性形)(仏pois,アイルランドpiss,ウェールズpysen,
ブルトンpizenn)←ギpísos,píson「豆、エンドウ」←?。語源不明。エーゲ文明時代に遡る語と考えられている。
伊piselloは指小形ラpisellumからの発達4。
◆中英cod←古英codd←ゲルマン*keudō(ō語幹男性名詞)「小袋」(古ノルドkoddi5(スウェーデンkudde「枕」,
ノルウェーkodd「金玉」))←?PIE*geut-←?*gēu-「曲げる」((?)ギgûros「輪」,(?)gúalon「窪み」)6。
音対応に難が有り、ワトキンズ等は当語根を認めていない。*gēu-「曲げる」の派生形*geut-の場合も、
[e]の母音がなぜ単音化したかとか、語尾の-t-の正体は何なのか等、突っ込むところが多い。ラbotulus「ソーセージ」との
関連を想定する説も有るようだが、この場合も*gwet-という*geut-の[e]と[u]の順番が入れ替わった(音位転訛)という想定が必要で
、更に円唇性のある半母音[w]によって[e]が円唇母音[o]に同化したと仮定しないとbotulusという形は導き出せない
7。
かように相当トリッキーな変異を経ないと各語の語形に辿り着かない。ランコーン
(Rancorn)の第二要素と同根と考えられる。] 。
1 Reaney(1995)p.343
2 SurnameDB.com Pescud項
3 国王手元金とは王室費のうち、国王が個人的に使う金の事で、
言ってみればお小遣いみたいなもの。
4 英語語源辞典p.1042、Buck(1949)p.371
5 古ノルドkoddiは、n語幹男性名詞に改新されたもの。
6 Koebler idgW p.100ff.
7 なお、このラテン語から英pudding「プディング、プリン」が生じたとされる(英語語源辞典p.1126f.)。
執筆記録:
2010年11月22日 初稿アップ
PIE語根:Pease-cod:1.非印欧語;
2.(?)*gēu-「曲げる」
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