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Brocklehurst ブロックルハースト
概要
「アナグマの巣穴がある丘・木立」を意味する地名姓。
詳細
Ralph de Brockolhurst(1246年Lancashire)1
Robert de Brokholhurst(1246年Lancashire)2
William Brackleyhurst(1762年)3


地名姓。ランカシャー州とマンチェスター市に集住する。イングランド北西部ランカシャー州リブル・ヴァリー(Ribble Valley)州 自治区グリンドルトン(Grindleton)行政教区にある同名の地名に由来する。地名の変遷は以下の通り。

R. de Brockholhurst(1247年)4
Brocholehurste(1294年)4
Brocholehirste(1296年)5

原義は「アナグマの巣穴がある丘・木立」4, 6。古英broc(c)「アナグマ」7 (>英brock)+古英hol(h)「穴」(>英hole,hollow)+古英hyrst「丘、木立」(>英hurst)よりなる。EPNSによればこの地名は、1803年に記録されている ミットン(Mitton:ランカシャー州Blackburn近郊)出身のジョン・ブロックルハースト(John Brocklehurst)という人物の姓から 名付けられたと主張するが8、誤りではないかと思う。尚、当地の 南南西10㎞の辺りに古英broc(c)「アナグマ」と古英hol(h)「穴」より構成されるブロックホール(Brockhall:既出のMittonの直ぐ近く) という地名が有る。こちらの地名の初出はBrochol(1227年)6 で、後Brockhole(1289年)6 の綴りも見られる。 別々に地名が発生したのか、ブロックホール地名に因んでブロックルハースト地名が誕生したのか良く判らないが、当地一帯に嘗て アナグマが多く棲んでいたのだろう。

他にも、スコットランドにもブロックルハーストという地名が存在するという情報が有り(詳細な位置は確認が取れない)、その初出はBrockholhirst(1654年) であるという9。但し、姓の初出よりも後代である為、関係が無いだろう。
[Reaney(1995)p.66,Harrison(1912-1918)p.51,ONC(2002)p.94]
◆英brock「アナグマ」←中英brok←古英broc(c)(初出は西暦1000年以前)←ケルト*brokkos(o語幹男性名詞)「アナグマ」(古アイルランドbrocc(>アイルランド,スコットランド・ゲール broc),ウェールズbroch,コーンウォールbrogh,ブルトンbroc'h)(音位転換)←bork-ko-原義「灰色のもの」←PIE*bhork-ko-(o階梯+ 形容詞形成接尾辞)←*bherək-「輝く」(ギphorkós「灰色の」,古アイルランドbracc「まだらの」,古ノルドbraga「輝く、燃える」,ヒッタイトpár-ku-iš(parkuiš) 「綺麗な、純粋な」)10。上掲の説が有力で("The Oxford English Dictionary"(1989)にも採用されている説 である)、初見はマクベインだと思われる。この英単語がケルト語起源であることは明らかだが、マクベインの辞書には他の説も 紹介されている。以下に引用する。
スイスのケルト語学者トゥルナイゼン(Eduard Rudolf Thurneysen)の説・・・ラbrocc(h)us「出っ歯の」11と 関連。このラテン語の女性形*brocca「先の尖った棒状のもの」から仏broche「大串、ブローチ」(英broachは仏からの借用で同源)が 派生しており、「突き出た(もの)、尖った(もの)」の意のニュアンスがある。アナグマの突き出した鼻に因んだ命名とする。やはり、 同じラテン語から派生した仏brochet「カワカマス」も同様の理由から名を得たものと指摘する。又、ラbrocc(h)usがギ brkein「嚙む、咀嚼する」12と語源上関係するならば、このアナグマを意味する語の原義は 「噛み付くもの」かも知れないとする。
ドイツの印欧語学者ベッツェンベルガー(Adalbert Bezzenberger:バルト語専門)の説・・・露barsúk「アナグマ」、トルコporsuk 「アナグマ」、ハンガリーborz「アナグマ」との関連を指摘。但し、トルコ語の語形は古トルコporsmuk「アナグマ」13 に遡り、更にトルコ祖語の*borsuk「アナグマ」(タタールbursıq,バシュキールburhıq,アゼルバイジャンporsuq,カザフborsıq,ウイグル, ウズベクborsuq etc.)14に遡る(古トルコ語の-m-の由来は不明。他の同族語には確認できない)。 ロシア語形やウクライナborsuk、ルーマニアbursuc、アルメニアp’orsuġ(փորսուղ)はトルコ系言語のいずれかからの借用。 又、サンスクリットbradhná「灰褐色の(dun)」との関連を想定し、違う接尾辞による派生語PIE*bhrod-ko-sが同化作用を受けて発達した 形*brokko-に由来するとの案も挙げている。然し、サンスクリットbradhnáはPIEの動詞語根*bhel-「輝く」(cf.ブラック(Black))の 拡張形*bhlendh-のゼロ階梯*bhndh-(英blond「金髪の」はこの形からの発達)から生じたとする説も あり(但し、単独で音節を形成(成節)するPIE*はサンスクリットでは 普通に至る)15、俄かに信じがたい。
一方、ドイツの印欧語学者ケーブラー(Gerhard Köbler:ゲルマン語専門)は又別の説を展開している。彼によれば、英bristle 「動物の剛毛」の由来元であるPIE*bhar-「突出、先、剛毛」に遡ると見ている16。アナグマの突出した口吻(コウフン)を命名理由と見たもので、 ある意味ラbrocc(h)us「出っ歯の」由来説と近い立場といえる17
1 Reaney(1995)p.66
2 Harrison(1912-1918)p.51 "A calendar of the Lancashire assize rolls preserved in the Public Record Office, London." vol.47(1904)p.117にも同一人物が見えるが、綴りはRobert de Brockolhurst
3 Peter Wilson Coldham "More emigrants in bondage, 1614-1775."(2002)p.23
4 Wyld et Hirst(1911)p.79 尚、初出形の人名は本ページ冒頭の1246年の古い人名と同一人物のものと思われるが 、綴りが微妙に異なる原因は不明。詳しい情報が無いので、如何ともしがたい。
5 Ekwall(1922)p.90
6 ibid. p.71
7 英語語源辞典p.1599
8 EPNS vol.35(1961)p.194
9 http://www.btinternet.com/~frank.brocklehurst1/Scotland.html
10 MacBain(1855-1907)p.50-51、英語語源辞典p.163、Pokorny(1959)p.141
11 研究社羅和辞典p.84
12 Chantraine(1968-80)p.198-199 この語自体の語源は不詳。シャントレヌはアルメニアkrcem「齧(カジ)る」、古スラヴgryzǫ「齧る」 (露gryzt'「齧る」)との関係を提案している。
13 http://tr.wiktionary.org/wiki/porsuk
14 http://n-true.livejournal.com/527027.html、http://en.wiktionary.org/wiki/porsuk
15 http://ejje.weblio.jp/content/blond
16 Köbler aeW. B項p.62 英語語源辞典p.162等も参照。但しポコルニーとワトキンズは語根を*bhars-と想定する( Watkins(2000)p.7-8、Pokorny(1959)p.109-110)。
17 尚、ポコルニーもワトキンズも英語語源辞典も、ラbrocc(h)usとPIE*bhar(s)-「突出」との 関連を指摘していない。

執筆記録:
2011年6月6日  初稿アップ
PIE語根Broc-k-l-hur-st:1.*bherək-「輝く」;2.(?)*-ko-形容詞形成接尾辞;3.*kel-2 「覆う、隠す」;4.*kert-「回す、絡み合わせる」;5.*-sti-接尾辞

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