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Blenkinsop ブレンキンソップ
概要
地名姓。「Blenkin,Blenkyn(人名)の沼地にある囲い地(古英hop)」の意。
詳細
Symon de Blanchainesop(13世紀Yorkshire)1

地名姓。Durham州、特にDarlingtonに多い。 ブレンキンソップ(Blenkinsopp)(英国北東部/ノーサンバーランド(Northumberland)州/ ホールトウィスル(Haltwhistle)行政教区)という地名に因む。地名の歴史上の変遷は以下の通り。
Blencheneshopa(1177年)2
Blencanhishop(1236年)3
Blenkeneshop(1255年)2
BlenkeinshopBlekenishopBlencanishop(1250年頃)2
Blenkaneshope(1346年)2
Blankensop(1428年)2

字義は「*Blenchen(人名)の沼地にある囲い地(古英hop)」であると筆者は考える。 諸書は「Blenkin,Blenkyn(人名)の沼地にある囲い地(古英hop)」と説明しいる4。 どちらも究極的には同語源の解釈と判断されるが、ややこしい経緯が考えられるので順次説明していく。 第二要素-hopはドイツの物理学者の姓ファーレンハイト(Fahrenheit)の-heitと同語源(cf.Hopkirk(ホプカーク))。 問題は第一要素で、これが男名に起因していることは明らかなのだが、その男名の正体・語源の特定が難しい。 諸書の提案する説に登場するブレンキン(Blenkin5、Blenkyn5) という名は、一般的な男名として かつて存在していたらしく、実際この男名に由来するBlenkinという姓が英国に現存している。 1553年にはヨーク(York)市にJohn Blenkynsonという人物がいた記録が有る6。 この男子名の語源に関して、ONCは古期英語に*Blencaという未文証の男名が存在したと想定し、Blenkinは その派生形とみる4。最後尾は指小辞とみなしているのだろう。 男名ブレンカ(*Blenca)に関しては後述。

モウワー(Mawer)も男名Blenkinに因む地名と解釈しており、その男子名の後半要素の-kinは指小辞とみている 2。この接尾辞はジェンキンズ (Jenkins)やアトキンズ(Atkins)等の父称姓にもみられる。元々はオランダやフランドルで多用されていた 指称辞(中オランダ-kijn,-ken,中低独-kīn)を借用したか、模倣したもので、英語では12世紀から個人名中に 現れ始める7。この接尾辞は古ザクセン-ikoと古ザクセン-īnという二つの指小辞を 結合して作られた二重指小辞で、ドイツ語のメルヘン(Märchen)「おとぎ話」の後半の-chenはその高地ドイツ語相当形 である。然し二つの点からこの説を受けいるのは難しい。まず第一に、Blen或いはBlanという個人名や単語が古英語で 確認されていないこと。第二に上掲の地名の古形がこの説を裏付け得る形をとっていない。細かい事なのだが、 地名の古形の人名相当部分の末尾が-en-とか-an-を取っている点が重大な問題を孕んでいる。-en-という形からは、 むしろ英語本来語の指小辞である古英-en8であると考える方が形の上で無理がない。 もし、末尾部分が外来語の指小辞である-kinが語源であるならば、その母音はiかyで現れているはずである。 試しに-kinを語尾に取る人名の中世の英語における表記を見てみると、例えば、Hobekinus(1224年:男子名 (後のHopkins姓の語源))9、Hochekyn(1327年:姓(後のHodgkin姓)) 10、Janekyn(1260年:男子名(Jenkins姓の語源))11、 Wilechin(1166年:男子名(Wilkins姓の語源))12等であり、それは現在の家族名 に於いても-kin-という形で保存されている。又、同接尾辞を語尾に取る普通名詞の英lambkin「小さな子羊」, mannequin「マネキン」,napkin「ナプキン」にも同様の事が言える13

では地名ブレンキンソップの第一要素である人名の正体は何なのか。上掲の古形から判断するとブレンケン(*Blenchen)という 人名を想定することができる。この名前の最後尾は指称辞の古英-enで、前述した男名ブレンカ(*Blenca)の 指小形であると思われる。 そこでブレンカ(*Blenca)という男名の語源は何かというと、その候補として有り得るのは古英blėncan「騙す、欺く」 14という動詞であり、元々は「ペテン師、詐欺師」を意味する渾名であったと 考えることができる。然し文証されている男子名ではないので、仮定を重ねた憶説である。 又いま一つ考えられるのは、古英blanca「白馬、かび」15に由来する男子名ブランカ(Blanca) 16に指称辞の古英-enが付いて生じた名前ともとれる。 前舌母音を含む接尾辞-enが後続したことで、第一音節の母音がウムラウトを起こして*Blanchen→*Blenchenと転音したものと 考えられる。リンカーンシャー州の地名ブランクニー(Blankney)に、この男名Blancaが確認できる。 ブランクニーの古形はBlachene |sic|(1086年:DB)17、Blancaneia(1157年) 17。字義は「Blancaの島」で、後半-e(ia)は英island「島」の第一要素と同語源であり、 前半部分が男名Blancaの単数属格形である。

以上の考察を踏まえると、この地名の原義は「*Blenchen(人名)の沼地にある囲い地」ではないかと 筆者は考えている。或いは個人名Blenkinは、この未確認の男名*Blenchenの末尾をオランダ起源の指小辞-kinと 混同し変形して生じたのかもしれない。そうであれば、存在の確認されないBlen-なりBlan-という語句を想定しなくとも、 Blenkinという名の起源の説明は一応は可能である。地名の現名Blenkinsoppが-kin-の形をとっているのは、 後代に出現した男子名Blenkinの影響を受けて転訛したものと筆者は考えている。
尚、地名ブレンキンソップの語源をカンブリア州の地名 ブレンカーン(Blencarn)と関係付けるウィークリー(Weekley)の説は、モウワーも指摘しているように疑問である 2。 [Reaney(1995)p.49,Lower(1860)p.31,ONC(2002)p.73]

◆古英blanca「白馬、カビ」←ゲルマン*blankōn(n語幹男性名詞)「白馬」←*blankaz「白い、光が弱い」(古フリジアblank「白い」, 古高独blank,blanc「白い、輝いている」,古ノルドblakkr「(色が)淡い、黄土色の」,ゴート*blagks「白い、輝いている」) PIE*bhleg-「輝く、燃える、焼ける」(ギphlégein「燃える」,ラfulgēre「輝く、閃く」,古リトアニアblinginti「輝く」, サンスクリットbhrāj-(āはマクロン)「強く輝く」,トカラA,B pälk-「燃える、輝く」)←*bhel-「輝く、閃く、燃える」17。 仏blanc,伊bianco「白い」はゲルマン語からの借入。

1 Reaney(1995)p.49
2 Mawer(1920) p.26
3 Ekwall(1960)
4 ONC(2002)p.73
5 ONC(2002)p.73
6 Reaney(1995)p.49
7 英語語源辞典p.767
8 英語語源辞典p.428 英chicken,maidenの語尾も同指称辞に由来。上掲の二重指称辞の第二要素も同語源である。
9 Reaney(1995)p.238
10 Reaney(1995)p.234 更に日本語の「ホチキス」も同語源。
11 Reaney(1995)p.254
12 Reaney(1995)p.493
13 但しmannequinは仏mannequinの18世紀初頭の借用。このフランス語はオランダmanneken, mannekijnの借用。オランダmannekenは既に母音が弱化して-enに転じている。
14 Köbler altE. W. B項p.110
15 英語語源辞典p.131、Köbler altE. W. B項p.108 Köblerは「白馬(Schimmel)」の意味しか記していない。
16 Forssner(1916)p.50 Forssnerは、英white「白い」と語源上関係のある古英の男子洗礼名Hwitaとの関連を指摘している。
17 ONC(2002)p.948

執筆記録:
2010年11月22日  初稿アップ
PIE語根:Blenk-in-s-op:1.*bhel-1「輝く、燃える」;2.*-no- 形容詞形成接尾辞;3.*-es-属格語尾;4.語根不詳

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