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Blane ブレイン
概要
①古英語で「吹き出物」を意味するニックネーム姓。
②「小柄な金髪の人」を意味するゲール語の個人名に由来すると思われる。
③古ウェールズ語の男子名Bledgintに由来。第二要素は「種族」の意。
詳細
Hamo del Blein(1219年Kent)1

①ニックネーム姓、居住地姓。古英bleġen「小水疱、潰瘍、膿疱」2, 3,中英blayne「(皮膚の) 水ぶくれ、膿疱、皮膚表面上の炎症による発疹」3(>英blain)に由来し、「吹き出物を患って いる人」を意味する渾名に由来する姓と考えられる。或いは、リーニーによれば地形に因む姓ともしている。
[Reaney(1995)p.48,ONC(2002)p.71]
Patrick Blane(1561年)1
John Blain(1674年Scotland)1

②父称姓。聖ブレイン(St. Blane)というスコットランドで活躍した宣教師の名前にあやかって付けられた。彼は後に司教と なり、590年に没した4。彼の名前の由来については、二つの説が存在している。一つはスコット ランド・ゲールblá「黄色い」5(アイルランドblá「黄色い」6)に指小辞 -ánが付いた形Bláánに由来するという説4, 5、今一つはアイルランドbléan「鼠蹊部(ソケイブ)」 7,スコットランド=ゲールblian「鼠蹊部」8に由来するという説 4, 9である。英Wikipediaに彼の項が立項されており10、それに よれば彼の名は古アイルランド語でBláánというとある。また、スコットランド・ゲール語の指小辞-ánは、フィネガン (Finnigan)とかマクミラン(MacMillan)、シャノン(Shannon)といった個人名起源の多くの姓の語尾に見られる。「黄色い」の 指小形説の方が説得力が有ると言える。もしかしたら、元々は金髪の小柄な人を表した名前だったのかもしれない。鼠蹊部の ような見分けの付き難い部分で個人を判別する名前を作るとは考え難いし、語形の面から見ても「鼠蹊部」説は根拠に乏しい。 bláはケルト祖語blâvo-s「黄色の」11に遡り、既に大陸ケルト語で人名要素として用いられている ケースが見られる。一例として、ロゼール(Lozère)県の小村ブラヴィニャック(Blavignac:初出Blavinhac(1352年) 12)は*Blaviniusという人名に因むとされ13、ケルト*blâvosの 指小形に由来するのではないかともされる14
[Reaney(1995)p.48,Harrison(1912-1918)p.36,ONC(2002)p.71]
Andrew Blayn(1219年York)1
Nicholas Bleyne(1275年Suffolk)1

③父称姓。古ウェールズBledgint1, 15中ウェールズBledyn(t)15と いう男子名に由来する。現代ウェールズ語ではBleddyn15で、今でも用いられている。 第二要素はラテン語のgēns(属格gentis,対格gentem,語幹gent-)「氏族、種族」を借用したウェールズgynt「人々(people)、 種族(race)」15, 16である。一方、-gyntは「最初の」を意味するケルト語*kintu-に由来するという 説も有る17。この解釈は、ウェールズgynt「以前に、一度」18と 関係付けている解釈の様に思える。どちらが正しいのかは良く判らない。第一要素については説明している文献がなく、 語源不明であるらしい。尚、ウェールズ男名Bleddynの語源をウェールズblaidd「狼」19, 中ウェールズbleidd「狼」*20(=アイルランドbled「海の怪物、鯨」19と同語源)の指小形と する説も有るが21、この名前の古い形に合致しない主張であり、認めがたい。
[Reaney(1995)p.48]
◆古英bleġen(e)「小水疱、潰瘍、膿疱」←ゲルマン*blajinōn(n語幹女性名詞)「小水疱」(オランダblein,中低独bleine,古スウェーデンblena 「小水疱」,デンマークblegn)←PIE*bhloi-eno-(?(まるぴこすによる再建)o階梯+形容詞形成接尾辞)←*bhlei-(拡張形)「吹く、 膨らむ」←*bhel-「吹く、膨らむ」22。PIE*-eno-は形容詞接辞*-no-の異形だが、*bhloi-に後続する事で、iとeが連続し、 iが子音化、後続のeはそれに同化してiとなり、ゲルマン*blajinōnとなったと私は解釈する。然し、一方でKöblerは 古英bleġenの形態素をble-g-enと分けているので、ゲルマン*blajinōnはゲルマン*blaj-iji-nō-nに遡り、更にPIE *bhloy-éye-no-n-sに遡って、*bhloy-éye-という*bhlei-「膨らむ」の使役動詞語幹に形容詞接辞*-no-が付いた形とも 考える事が出来る。この際、ゲルマン語で連続する-ji-の一方が省かれるのはハプロロジーと解釈できる。この仮定だと、 ゲルマン*blajinōnは「膨らませたもの」が原義ということになるが、そこから「水泡」の意に果たして転じ得るだろうか。 またこの様な造語法が有り得るのかどうか良く判らない。
◆アイルランドblá「黄色い」←古アイルランドblā「黄色の(?)」←ケルト*blâvos「黄色の」←PIE*bhə-wo-(ゼロ階梯+形容詞 形成接尾辞)(ラflāvus「赤褐色の、黄色の」)←*bhleH1-(拡張形)←*bhel-「輝く、閃く、 燃える」(古英blāw「青い」,リトアニアblãvas「青みがかった、金色の、黄色の」)23。 因みに、フラボノイド(flavonoid)とかイソフラボン(isoflavone)のflav-の部分は、ラflāvus「黄色の」に由来。cf.ブレッチリー (Bletchley)、ブレンキンソップ(Blenkinsop)、ブラック(Black)
1 Reaney(1995)p.48
2 Köbler aeW B項p.46
3 英語語源辞典p.130
4 Sheehan(2001)p.332
5 ONC(2002)p.71
6 O'Brien(1832)p.55
7 O'Reilly(1821)p.28
8 Macleod(1831)p.74
9 Harrison(1912-1918)p.36
10 http://en.wikipedia.org/wiki/Saint_Blane
11 Whitley Stokes,Adalbert Bezzenberger "Wortschatz der keltischen Spracheinheit"vol.2(1979)p.187
12 Nègre(1990)p.460
13 Revue internationale d'onomastique. vol.8(1956)p.278 ネグルはローマ人の人名 Balbinius派生説を採る。自分の考えだけれども、俗ラ*blāvu(m)「青い」 (←フランク*blāo←ゲルマン*blēwaz(古英blāw,古高独blāo「青い」))の指小形とした方が(地名の初出年代も考慮して)、 しっくりくる様に思う・・・。俗ラ*blāvu(m)は仏bleu「青い」(→英blue「青い」)の語源。やはり、PIE*bhel-「輝く」に 遡る。
14 この説は、Googleブック検索でなんかの本で見たのだが、書名をメモしなかった為 出典が判らなくなってしまった(泣)。この本には他にもケルト*blâvos「黄色の」を含む人名が書いてあって、確か *Blavorixとか何とか言う綴りの個人名に因むと考えられる大陸ケルト語由来の歴史的地名も記されていた。
15 Patrick Sims-Williams "The Celtic inscriptions of Britain: phonology and chronology, c.400-1200"(2003)p.181
16 Universität Bonn / Romanisches Seminar"Romanistische Versuche und Vorarbeiten."(1969)p.153
17 Lambert et Pinault(2007)p.457
18 http://www.websters-online-dictionary.org/Welsh/gynt?cx=partner-pub-0939450753529744%3Av0qd01-tdlq&cof=FORID%3A9&ie=UTF-8&q=gynt
19 Buck(1949)p.185
20 http://en.wiktionary.org/wiki/blaidd
21 ONC(2002)p.715 この説は語尾の-ynをウェールズ語の指小辞とみなしているもの。実際、この接尾辞を持つ語は 存在している。例えば、ウェールズbachgen「少年」の指小形bachgenyn「小さな少年」。但し、ウェールズ語では単数形を 表す為に接続する語尾(その語尾をつけた形をsingulativeという)も-ynである。
22 英語語源辞典p.130、Watkins(2000)p.12、Pokorny(1959)p.156、Köbler idgW Bh項p.25
23 英語語源辞典p.136、Watkins(2000)p.9、Pokorny(1959)p.160

執筆記録:
2011年2月12日  初稿アップ
PIE語根:Bla-ne:①:1.*bhel-2「吹く、膨らむ」;2.*-no-形容詞形成接尾辞
②:*bhel-1「輝く、閃く、燃える」;2.(?)*-no-形容詞形成接尾辞
③:1.語源不明;2.*-gen(ə)「産む、生まれる」

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