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Belby ベルビー
概要
地名姓。「*Belli(人名)の居住地」を意味する。
詳細
Bussell de Bellebi(1202年Yorkshire)1

地名姓。英国ヨークシャー・ハンバー(Yorkshire and the Humber)地方、 イースト・ライディング(East Riding of Yorkshire)ホーデン(Howden)行政教区にある同名の地名より。 地名の歴史上の綴りの変遷は以下の通り。
Belleby/Bellebi(959年:1200年頃写本)(1086年DB)2
Ballebi(1086年DB)2
字義は「*Belli(人名)の居住地」3。 人名ベッリ(*Belli)4は「勇(イサミ)」の意と筆者は解釈する(詳しくは後述)。諸書は 古ノルドbellinn「大胆な(bold)」に由来する添え名か、或いはノルウェー語《方言》bell「鐘を打つ者」に由来すると している4

古ノルドbellinn「大胆な」の意味は古アイスランドbella「~する勇気がある、思い切って~する(to dare, venture)」5, 古ノルドbella「強くする、元気付ける、実行する(kräftig machen, aufmuntern, ausführen)」6, 7からの派生であり、 語尾に見える-innは英golden「金(色)の」(=古ノルドgullinn「金(色)の」)の語尾に見える形容詞形成語尾と同じものである。 上掲の動詞はいずれも弱変化動詞、つまり英語の規則動詞に相当する活用タイプ(過去・過去分詞に-ed語尾をとる)の 動詞である。古ノルドbellinnは、ゾエガ著の古アイスランド語辞典では「ずるい(tricky)」意味だと記載されているが 5、その意味変化は不明。

古ノルドbella「強くする、元気付ける、実行する」はゴートbalþian「大胆である、思い切って~する」,古英bi(e)ldan,beldan 「勇気付ける、駆り立てる、拍車をかける」,古高独belden「大胆である、自信を持っている、勇気付ける」と同じくゲルマン *balþjan「勇気付ける」に遡る。ゲルマン*þ(発音記号では[θ])は古ノルド語・英語ではþ又はðで現れるのが 正則だが、歯茎側面接近音[l]に後続する場合は例外的に有声歯茎破裂音[d]が現れる。この現象は[l]が舌端を歯茎に接触させ閉鎖を 作りながら出す音である為、口腔内の同じ場所と方法で閉鎖を作った後に開放して発する子音[d]にシフトする方が、 発音上労力が要らないからである(反面、無声歯摩擦音[θ]は舌端を歯に添えて発音するので、舌ベロの先を歯茎から 歯の先にまで移動させる手間がかかってしまう)。又、[l]の有声性を引きずって[θ]の無声性が失われた。更に古ノルド語では、 [l]と[d]の調音が似通っている為、[d]が[l]に同化してbellaの形となる。これらの音韻変化は上掲の英golden,古ノルド gullinn(<ゲルマン*ʒulþīnaz)でも見られる。

この動詞は形容詞ゲルマン*balþaz「強い、勇ましい、大胆な」の動詞形であり、英bold「大胆な、(文字等が)太い」や、 人名の独レオポルト(Leopold(男名))、英アーチボールド(Archibald(男名))、仏ランボー(Rimbaud(姓))等の第二要素は 形容詞*balþazに遡る。つまり、古ノルド語の男子名*Belliは動詞bellaの語幹から形成されたn語幹男性名詞であり、 まさしく日本語における男子名「勇(イサミ)」と意味・成り立ち両面で対応していると言える。動詞形成語尾*-ja-(<PIE*-yo-)の 半母音[j]によってウムラウトを受け、語幹母音が*balþazのaからeに変化している。上掲の「鐘を打つ者」説は この説と比べると大分根拠が薄い嫌いがある。北欧語で関連の有りそうな古い単語が古ノルドbelja「吠える」7しかなく、 しかも語形・意味の両面から古英belle「鐘」の借用語であると思われる(アイスランドbjalla,ノルウェーbjella「鐘」 は英語からの借入8)。借用語である北欧の一地方の方言を語源としている可能性は非常に低いと思う。 [Reaney(1995)p.38]

1 Reaney(1995)p.38
2 EPNS vol.14(1937)p.249
3 Jensen(1972)p.20
4 http://www.vikinganswerlady.com
5 Zoëga(1922)p.47 他に関連語として、belli-bragð「ならず者のするいかさま」、bell-vísi「狡猾さ」を 記載している
6 Köbler altn. W. B項p.7
7 de Vries ANEW vol.1 p.32
8 de Vries ANEW vol.1 p.38
執筆記録:
2010年11月22日  初稿アップ
PIE語根:Bel-by:1.*bhel-2「膨れる、膨張する」;2. *bheuə-「~である、存在する」

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