概要
「王」を意味するギリシア語basileúsに由来する男名・女名より。
詳細
Willelmus filius Basilie(1219年Yorkshire)1;
Ralph Basille(1251年Huntingdonshire)1;
Ricardus filius Basilii(1252年Huntingdonshire)1
母称姓、父称姓。古仏の女名Basil(l)e、Basil(l)ie、Bazile、Basyleに由来する(英語形はBaslil、Bassilly)。
ラテン語の男子名Basiliusの女性形Basiliaに遡る。綴りが若干違うがローマの聖人バシラ(Basilla:?~304年)に
あやかって用いられた名であるらしい。彼女は異教徒との結婚よりも死を選んだ伝説で知られている。
逆にラBasiliusより派生した英語の男名Basilから生じた姓である場合も若干有るようである。上掲の古い姓の
記録3つのうち、前2者は前述の女名に由来する母称姓であり、最後の1例が父称姓である。
ラBasiliusはギBasíleiosの借入。ギbasileús「王」の形容詞形basíleios「王の」の個人名転用である。
男名のほうはカッパドキアのカエサリア(Caesarea)大司教のバシレイオス(330?年~379年)の名にあやかったもの。
彼はギリシア正教会の創始者4人の内の1人で、神学上の重要文献の著述や、修道院僧の宗教上の規律を制定した
事でも知られている。
[Reaney(1995)p.30、ONC(2002)p.50]
◆ギbasileús「王」←?。語源不明。ミケーネ文明時代には線文字Bでqasireuと表記されており、
/gʷasileus/と発音されていたと考えられている。第一要素をギbásis「歩くこと、土台」(ギbaínein「行く、歩く、進む」と関連)と、
第二要素をギlāos(āはアクサン=テギュ)「民」と関連付けて「民を率いるもの」といった解釈をする説がある。
これはドイツ語のHerzog「将軍(原義「軍団司令官」)」2
(古高独hari,heri「軍団」+古高独*zogo「率いる者」)と
相似た考え方である。また、第二要素をギlâas,lâos「石」とし、「石の上に乗る者」とする説もある。
他に、第一要素をギbóskein「食物を与える」(<PIE*gʷō-「食物を与える」)とし、「民を率いる牧人」の意とする
マイヤー(G. Meyer)の説、上掲ギbásisと同根語のリトアニアgim̃ti「生まれる」,giminė̃ 「家族」,gimtìs「種類、性別」と
関係付けて、文証されていないギ*básis「家族、一族」が第一要素の語源と見る説がある。上掲いずれの説もフランスの
ボワザック(Émile Boisacq)のギリシア語語源辞典に載録。どの説も憶測の域を出ない3。
1 Reaney(1995)p.30
2 現在は更に「公爵」の意味に転じている。同じ事が、やはりHerzogの第二要素
と同根語の英duke「公爵」(<ラdux「司令官」)にもいえる。
3 Boisacq(1916)p.115、Pokorny()p.463ff.、Beekes()p.113,Chantraine(1968)
p.180、Buck(1949)p.1321
執筆記録:
2010年11月22日 初稿アップ
PIE語根:Basil:非印欧語起源?。語根不詳
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