概要
①古英Ælfred「エルフ+助言」という男子名のアングロ=フランス語訛りに由来する。
②古英Ælfric「エルフ+支配者」という男子名に由来する。
詳細
Rogerus filius Alvredi(1166年Yorkshire)1
Hugh fil. Auveray(1273年Nottinghamshire)2
Ralph Averey(1273年Oxfordshire)2
Willelmus filius Averay(1275年Worcestershire)1
Edmund Avered(1279年Cambridgeshire)1
①父称姓。イングランド南部。特に、ケント州やデヴォン州に多い。この姓の語源については、19世紀後半の苗字本以来様々な説が提唱されて
きた。1857年刊のアーサーの苗字本では、スコットランド=ゲールaimhrea「乱すこと、不和、混乱(disturbance, disagreement, confusion)」
3に由来するとする説(-mh-は[v])、「穀物庫(granary)」を意味するAveryという語に由来するとする説、
ラaviārius「鳥を飼う人」4(cf.英aviary「鳥を飼育する為の大型の檻」)に由来するとする説を挙げる。
然し、この苗字は1881年の記録ではスコットランドには一軒も記録されておらず(ノーサンバーランドに若干見られるのが、英国に
おける分布の北限)、ゲール語に由来するとは考え難い。一方Avery「穀物庫」は、ランダムハウス英和大辞典にすら載っていない、
相当なマニアックな単語である。シャンボー(Louis Chambaud)の仏英辞典に仏grenier「穀物倉」の英対応語にaveryの語を挙げている
5。
1901年のバーズリーの辞書は、エヴリー(Every)姓の異形とする。彼によれば、Every姓はフランス語から借用された個人名Everardの短縮名に
由来するという。Everardという名は、現代ドイツ語の男子名エーバーハルト(Eberhard)と同語源の名前で、「猪」+「堅い、強い、厳しい」を意味する
二要素から成り立つ。更に、1903年のバーバーの辞書には、疑問符付きながらも仏ノルマンディー地方の地名エヴルー(Evreux)
6に由来するという説を提唱している。然し、いずれの説も語頭母音の音が合わない等問題を抱えており、
受け入れがたい。
上掲の苗字の古形の通りラfilius「息子」を伴っていることから、父称姓とするのが正しい。リーニーや『Oxford Names Companion』が
提唱する、男子名の古英エルフレード(Ælfred)7、後のアルフレッド(Alfred)のアングロ=フランス語の
発音訛りの形に由来するとする説が、最も説得力がある。フランス語では、閉音節の母音(a, e, o)+l(+子音)の[l]は、母音化して/u/に
転じた(dark-l)。この変化は、古フランス語期(800-1550年)の後期に生じていた現象で、Alfredの第一要素Alf-もこの条件に当てはまり、
音変化をこうむった。語尾の-dの消失の原因は未確認8。上掲姓の
古形の例に、末尾に-yを添えるものが幾つか見えるが、これは-dが消失して生じた代償延長などの名残を示すものかもしれない。
或いは、1166年の記録の様にÆlfredの属格形Alvrediから出発していて、フランス語訛りで母音間の-d-が弱化消失した形に由来している
かも知れない。
古英Ælfredは、文献上は718年に初出で、古英ælf「妖精、エルフ」9(>英elf)と古英rǣd,rēd「助言、決心、
計画、命令、知恵、理性、感覚、利益、善行、幸福、助け、力」10よりなる名前である。男名Alfredの原義を
「エルフの王」とする説も有る11が、次項②に詳述する古い個人名Ælfricの説明にこそ相応しい。現在、
Averyは男子名としても用いられるが、苗字からの転用と考えられている。cf.オーブリー(Aubrey②)
[Reaney(1995)p.19-20,Bardsley(1901)p.69,Arthur(1857)p.58,Barber(1903)p.86,ONC(2002)p.708]
②父称姓。古英エルフリーチ(Ælfric)13という男名に由来する。名前の構成は、古英ælf「妖精、エルフ」+
古英*rīċ「支配者」14に由来する。cf.オーブリー(Aubrey①)
[Harrison(1912-1918)p.16,ONC(2002)p.35-36]
1 Reaney(1995)p.19-20
2 Bardsley(1901)p.69
3 Macleod(1831)p.10
4 研究社羅和辞典p.72
5 Louis Chambaud "Dictionnaire françois-anglois et anglois-françois."(1815) avery「穀物庫」は
、恐らく古仏aveneris「カラスムギの畑」(Godefroy(1880-1902)vol.1 p.516)からの借用と思われる。cf.アヴェナリウス(Avenarius)
6 英姓エヴェレスト(Everest)の語源となった地名。
7 Searle(1969)p.15-16
8 確か、15世紀までに語末子音が脱落する現象が進行したと、なんかのフランス語の歴史の
本に書いてあった覚えがある。
9 Köbler aeW A項p.17
10 Köbler aeW R項p.2
11 梅田(2000)p.278
12 ONC(2002)p.708
13 Searle(1969)p.16-19
14 Köbler aeW R項p.15
執筆記録:
2011年8月4日 初稿アップ
PIE語根Ave-ry:①:1.*albho-「白い」;2.*rē(i)-「考える、数える」
②:1.*albho-「白い」;2.*reg-1「真っ直ぐ動く、導く、統べる」
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