概要
父称姓。「アンドリューの息子」を意味する。
詳細
Henry Androsoun(1443年頃)1;
John Andrewson(1444年)1;
Thomas Anderson(1471年)1
父称姓。イエスの12使徒の中で、最も早期に弟子となった聖アンデレ(Andreas)の名に因む男名を起源とする。
ラAndreāsを経由してギAndréāsに遡る。英語語源辞典等ではギAndréāsはギリシア語で「男らしい」を
意味する形容詞andreîosから派生したように説明されているが2、
andreîosの後半部分に含まれている
形容詞語尾(<PIE*-yo-)がAndréāsでは無くなっているので、形容詞andreîos起源と見るよりかは、
ゴットシャルトが示す様に、ギanēr(ēはアクサン=テギュ)「人、男」の連結形andr(o)-を第一要素に
持つ様々な古いギリシア人男名(例:)の短縮名と見るのが妥当なように思える3。最後尾の-āsはギリシア語の
男性名詞の接尾辞で、印欧祖語の男性名詞形成語尾*-eə2に主格の指標*-sが付随して発生したもの。
anērの連結形andr(o)-は、anērの単数属格形andrósに由来している。anērは印欧祖語の語根*ə2ner-「人」の語幹母音に
アクセントがある形に由来しているが、属格形andrósの発生過程は以下のようなプロセスを経たと思う。
まず*ə2ner-に属格語尾*-ésが後続してアクセントが接尾辞に移り、
語幹母音が消失して*ə2nr-ésという形が生じた。
次にnとrの連続子音が発音困難なため、nの音色の末尾を非鼻音化して-d-を生じさせることで、次の子音rを
発音しやすくしたのだと思われる(これを渡り音という)。同じ現象がドイツ北部の男名ヘンリク(Henrik)より
派生した北欧の男名ヘンドリク(Hendrik)にも見られる。
聖アンデレの実の兄弟とされる12使徒の一人聖ペトロ(Petros)の名前が彼のアラム語名ケーパー
(Kēphā(āはアクサン=テギュ):字義は「岩」)をギリシア語訳(ギpétros「石、岩」:cf.英petrol「石油」)した
ものである為、聖アンデレの本名はアラム語であったとの推論がある。然し、二人が兄弟であったという
証拠は何もないようである。ペトロとアンドレの名が両方ともギリシア語であった事から生みだされた
伝説なのかもしれない。
[Reaney(1995)p.72,ONC(2002)p.26,英語語源辞典p.44]
◆ギanēr(ēはアクサン=テギュ)←PIE*h₂nḗr「人、力」(ラNerō(人名:皇帝ネロ),古アイルランドnert「力、強さ」,
リトアニアnoras「望み」,古教会スラヴnravŭ「習慣」,ペルシアnar「男」,サンスクリットnára「男、人」,
アルバニアnjeri「人、人間」,アルメニアayr「男、夫、勇者」,プリュギアanar「夫」,ヒッタイトinnarawatar「強さ、力、活力」)
4。
1 Reaney(1995)p.11
2 英語語源辞典p.44
3 Gottschald(1982)p.88 またONC(2002)p.700
4 Puhvel vol.1-3(1984-1991)p.367ff.、Watkins(2000)p.58、Pokorny(1959)p.765
執筆記録:
2010年11月22日 初稿アップ
PIE語根:Ander-son:1.*ner-2「人」;2.
*seuə-1「産む」
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