概要
①ポーランドwół「雄牛」に由来する地名より。
②「ケルト人居住地」を意味するヴォーレン(Wohlen)というスイスの地名より。
③父称姓。「統治(者)+軍団」の意。
④父称姓。「良い+軍団」の意。
⑤高地ソルブwola「意思」か、或いはその同根語に由来する人名に因む地名より。
詳細
①地名姓。ポーランドwół「雄牛」に由来する以下の地名より。
●シュレージエン北部、ブレスラウ(Breslau)市の北西45㎞にある都市ヴォーラウ(Wohlau)。
旧Wohlau管区の中心都市。ポーランド語名ヴォウゥフ(Wołow)。
Wolouo, item Wolouo(1202/1218年)1, 2, 3
Wolaw(1288年)1, 2, 3
Wolow(1300年頃)1, 3
Wolavia(1311年)1
●東プロイセン西部グダニスク湾に臨む旧ハイリゲンバイル(Heiligenbeil:現露Mamonowo)管区内にある地名ヴォーラウ
(Wohlau)。 ポーランド語名ヴォウォヴォ(Wołowo)。
Вало́ва(1778年)4
[Gottschald(1982)p.535]
②地名姓。ヴォーレン(Wohlen)という以下の地名より。
●(スイス/Bern)
Wolun(1282年)5
Wolon(1296年)5
●(スイス/アールガウ(Aargau)州/ブレームガルテン(Bremgarten)郡)
ad curtes de Vuolon(1178年:16世紀写本)6
Wolon(1179/1189/1223年)6
Wolun(1245年)6
Arnoldo de Wolhovin(1248年:人名)6
Henrico de Wollon(1259年:人名)6
under dem von Wolen(1303年)6
いずれも古高独Walah「ケルト人、ロマンス語系人、外人、ローマ人、非ドイツ人」7
の複数与格に由来し、「ケルト人の集落(bei den Walchen)」の意であるとされる8, 9。
但し、「ロマンス語系の人の集落」を意味する可能性も有りうる。
[Gottschald(1982)p.535]
③父称姓。男名ヴァルター(Walt(h)er)の低地ドイツ語形Wolter、Wolderに由来する。1300年頃からリューベック
(Lübeck)などでWoler(<Wolter,Wolder)という名前が使われだし、その名前からの発達。古ザクセン*wald「統治者;
権力」10,waldan「統治する」11と古ザクセンhėri「軍団、群集、民」
12に由来する。
[Gottschald(1982)p.535,p.515,Kohlheim(2000)p.726,Bahlow(2002)p.559]
④父称姓。どの苗字本にも指摘が無いが、古いドイツ人男名ウォレリ(Woleri)13に
由来する可能性もある。人名は古高独wola「良い」14(>独wohl)と古高独hari,heri
「軍団」の合成語。
⑤地名姓。①とは別語源なので注意が必要。以下のザクセン州にある地名に由来するが、ゴットシャルトによれば
古スラヴ語、つまり古教会スラヴ語のvolja「意思」と関係付ける15。この指摘にのっとると、
高地ソルブwola「意思」16に由来すると考えられるが、動詞形のスラヴ*voliti「望む」
17を要素にとる男子名Wolislav15、Wolimir
15、Wolibor15等の短縮名に由来するかもしれない。
高地ソルブwola「意思」は女性名詞であるが、この語が男子名として使われた場合、男性名詞として扱われ、
物主形容詞も男性名詞に後続する-ow(cogn.露-ov)が後置する18。
以上のことから、ソルブ人の男子名に*Wola、或いは*Wolがあり、その人物の所有地を表した地名と判断できる。
「*Wola、*Wol(いずれも人名:「意思;望む」の意)の所有地」の意となる。
●ヴォーラ(Wohla)(ザクセン州/ゲルリッツ(Görlitz)郡/レーバウ(Löbau)行政共同体/レーバウ市/キトリッツ(Kittlitz))
高地ソルブ語名ヴァロヴィ(Walowy)。
Wal(1348年)19
Wolo/Wole(1390年)19
Wol(1410年)19
Wale(1481年)19
Wolow(1491年)19
Wolaw(1501年)19
Wolau(1583年)19
●ヴォーラ(Wohla)(ザクセン州/バウツェン(Bautzen)郡/エルストラ(Elstra)市)高地ソルブ語名ヴァロウ(Walow)。
Walaw(1420年)19
Wohla(1633/1791年)19
Wohle(1732年)19
●ヴォーラウ(Wohlau)(ザクセン州/ノルトザクセン(Nordsachsen)郡/ベルガーン(Belgern)市)高地ソルブ語名ヴァロウ(Walow)。
Wolov(1314年)20
Wolaw/Wolau(1497年)20
Wohlau(1768年)20
[Gottschald(1982)p.535]
◆ポーランドwół「雄牛」←スラヴ*volŭ(o語幹男性名詞)「雄牛」(露,ベラルーシ,ブルガリアvol,ウクライナvil,セルボ=クロアチアvo(l)
, チェコvůl,古教会スラヴvolŭ)←PIE*wal-「強くなる」(ラvalēre「強くなる」)21。
◆高地ソルブwola「意思」←スラヴ*volja(ja語幹女性名詞)「意思」(露,ウクライナ,ベラルーシ,ブルガリアvólja「意思」,
セルボ=クロアティアvoљa,スロヴェニアvolja,スロヴァキアvôl'a,ポーランドwola,低地ソルブwóla,古教会スラヴvolja
「意思、自由」)←PIE*wol-(О階梯)←*wel-「望む、選ぶ」(ギélpein「望ませる」,ラvelle「望む」,ウェールズgwell「より良い」,
ゴートwilja「意思」,ラトヴィアvēlēt「承諾する、望む」,サンスクリット,アヴェスタvar-「選ぶ」,アルメニアgeɫ「喜び」)
22。
1 Erich Keyser,Heinz Stoob,Peter Johanek "Deutsches Städtebuch: Schlesisches
Städtebuch"(1995)p.462
2 Waldemar P. Könighaus"Die Zisterzienserabtei Leubus in Schlesien von ihrer
Gründung bis zum Ende"(2004)p.467
3 "Archiv für schlesische Kirchengeschichte"vol.30~32(1972)p.68
4 ロシアwikipedia、Волово (Липецкая область)項
5 Albert Jahn:"Der Kanton Bern, deutschen Theils, antiquarisch-topographisch
beschrieben"(1850)p.366
6 Zehnder(1991)p.474
7 Köbler ahd.W. W項p.11
8 http://de.wikipedia.org/wiki/Wohlen_AG
9 http://www.wohlen-be.ch/de/inhalte/Portrait/geschichte.php 他にも
ゴールWalon「垣根、囲い地」に由来するとする説(この語は辞書で確認できない)などが紹介されている。
10 Köbler as.W. W項p.6
11 Köbler as.W. W項p.7
12 Köbler as.W. H項p.54
13 Förstemann(1966)p.829
14 Köbler ahd.W. W項p.158
15 Gottschald(1982)p.508
16 Chernykh vol.1(1993)p.164f.
17 Wenzel(1999)p.260
18 この様な例はチャイコフスキー(Chaikovsky)の姓にも見られる。ロシア人
男子名サーシャ(Sasha)も語形は女性名詞だが、男性名詞として扱われる。
19 Blaschke & Baudisch vol.2(2006)p.819
20 Blaschke & Baudisch vol.2(2006)p.819f.
21 Chernykh vol.1(1993)p.163
22 Chernykh vol.1(1993)p.164f.、Buck(1949)p.1160、Pokorny(1959)p.1137f.
執筆記録:
2010年11月22日 初稿アップ
PIE語根Wöhl-er:①1.*wal-「強くなる」;2.語根不詳
②1.語根不詳;2.語根不詳
③1.*wal-「強くなる」;2.*koro-「軍団、軍隊」
④1.*wel-2「望む、選ぶ」;2.*koro-「軍団、軍隊」
⑤1.*wel-2「望む、選ぶ」;2.語根不詳
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