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Westphal, Westfal ヴェストファル
概要
地名姓、ニックネーム姓。「ヴェストファーレン人」の意。
詳細
arnoldus westvalus(1202年Schickelsheim(Braunschweig近郊))1Egbert Westfal(1294年Stralsund)2Thidericus Westfal(1308年Hannover)3

地名姓、ニックネーム姓。メクレンブルク=フォアポンメルン州とシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州に特徴的な姓。 中高独Wëstvāl(e)4、中低独Westvāl 5「ヴェストファーレン人」に由来し、「ヴェストファーレン (Westfalen)地方出身者」の意。 また商業的な関係で、この地方と繋がりがあった者に与えられた渾名に由来する。ハンス・バーロウ (Hans Bahlow)に よると、この姓はメクレンブルク(Mecklenburg)やポンメルン(Pommern)地方の開拓地に派遣されたヴェストファーレン人の 姓として付けられる事が多かったらしい。彼らは又、バルト海沿岸の港湾都市間の通商も担った。
ヴェストファーレンという地名は、本来はゲルマン人の一部族の名前であり、部族名自体は775年にWestfalai 6の形で初見。語源は古高独Westfala,Westfalōn「ヴェストファーレン人」 7,古ザクセンWestfalai,Westfalaus「ヴェストファーレン人」8。 古ザクセンWestfalai,Westfalausはラテン語に改変した形であり、原型の古ザクセン*Westfalā(文証されていない 複数主格形)に無理矢理ラテン語の男性名詞の複数主格語尾-īと単数主格語尾-usをくっつけたものである 9。 前述の部族名の初出形は正にこの形であり、複数形に更に複数語尾が付いているので、逐語訳すると「ヴェストファーレン人 達々」になってしまう。いずれも、第一要素は古高独*west10,古ザクセン*west 11「西の」である。第二要素は古ザクセン*fal-ah「野原、平地」12に 由来すると考えられている。ホルトハウゼン(Holthausen)の古ザクセン語辞典にも収録されている語らしいが、 印欧語根の*pelə-「平らな;広げる」のО階梯*polə-に由来していると解釈される。古ザクセン*fal-ahの第二要素*-ahに 関しては未確認。どのような根拠でこの接尾辞を付けて再建形を構築したか不明だが、もし可能ならば印欧語学者の マルティネが提示している男性名詞形成語尾のPIE*-eH2(アグリコラ(Agricola:原義は 「畑を耕す者」で、つまり「農民」を表す)の語尾-aの語源)13を付随して生じた形が古ザクセン *fal-ahと考える事も出来ると思う(これは管理人の考え)。PIE*-eH2なる接尾辞は「~する者」、 「~に関する者」を意味しており、前述のPIE*pelə-「平らな」のО階梯にこの接辞が付けば、PIE*pol(H 2)-eH2-s《単数主格形》「平地の住民」なる語を想定することが 可能である14。主格語尾*-sの後続により直前のH2が 硬化して[k]となり、後に主格語尾*-sが脱落、ゲルマン祖語時代の[p]→[f]と[k]→[h]の子音弱化を経れば*fal-ah-という 形は規則的に得られる15。実はPIE*pol(H2)-eH2-sという語は スラヴ語では規則的に*polak-の形に転じる。ポーランドPolak「ポーランド人」(>英Polack)は正にこの語から生じており、 この語に由来する姓ポラック(Pollack)とヴェストファル姓は語源上関連があることになる。
[Gottschald(1982)p.526,Kohlheim(2000)p.712,Bahlow(2002)p.549,Naumann(2007)p.284]
1 Neue Mitteilungen aus dem Gebiete historisch-antiquarischer Forschungen vol.2 p.466
2 Bahlow(2002)p.549
3 Kohlheim(2000)p.712
4 Lexer vol.3(1878)p.804
5 Lübben(1888)p.578
6 Richard Drögereit, Carl Röper, Herbert Huster"Sachsen, Angelsachsen, Niedersachsen: ausgew. Aufsätze in e. dreibändigen Werk"vol.1(1978)p.433、 http://de.wikipedia.org/wiki/Westfalen#Vor-_und_Fr.C3.BChgeschichte
7 Köbler ahdW. W項p.85 尚、Westfalaはa語幹男性名詞複数主格形、Westfalōnの形は n語幹男性名詞複数主格形である。
8 Köbler asW. W項p.56
9 ヴェストファーレンと対を成すオストファーレン(Ostfalen)も本来はゲルマン人の 部族名で、その初出はOstfalaos(784年)である。この初出形も古ザクセンWestfalausと文法上同じ処理が施されている。
10 Köbler ahdW. W項p.83
11 Köbler asW. W項p.55
12 Köbler asW. F項p.4
13 Martinet(神山訳)(2003)p.182f.
14 PIE*pelə-「平らな」の最後の喉頭音はH2と再建されている (Watkins(2000)p.64)。
15 ヨーロッパの言語学者がこの*fal-ah-という単語をどのように解釈しているのかは確認が 取れていない。PIE*-eH2を語尾に取る男性名詞は上掲のマルティネの本によれば、スラヴ語や ギリシア語でも確認されているが、ゲルマン語では私の知る限りでは他に無い。あくまでこの説はアマチュアの私が 考えた戯言であることに注意してほしい。

執筆記録:
2010年11月22日  初稿アップ
PIE語根West-phal:1.*wes-pero-「夕方、夜」;2.*pelə-2 「平らな;広げる」
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