概要
①中高独kümel「キュンメル」という香辛料の名に由来し、「香辛料商人、香辛料が好きな人」の意。
②「*Chumel(人名:「嵐」の意)一族の地」を意味すると思われる、バイエルン北部の同名の地名に由来。
③クニパルド(Chunipald:古高独kuoni「勇敢な」+古高独bald「勇敢な」)という古い男名に由来。
詳細
全国的に見られる姓だが、ヘッセン州に割と多く分布する。但し、バイエルン州は少ない。3つのルーツが有る。
Godefridus Kumel(1206年Himmerode(プロイセン))1
Bogil Kumil(1532年Neustadt(オーバー=シュレージエン))2
Hans Kumel(1554年Würzburg)3
①職業姓、ニックネーム姓。中高独kumin,kümel,kumel,kumme「キュンメル」4(>独Kümmel)に由来する。
キュンメルとは地中海産のセリ科の植物ヒメウイキョウ(キャラウェイともいう)の種から採れる香辛料の一種で、パンや菓子、料理、
チーズ、酒などのスパイスに使われる。Kümmel姓は、こういったスパイスを売る「香辛料商人」を表す。また、「香辛料が好きな人」を
意味する姓。尚、本来の中高独の語源的語形はkumin(<後ラcumīnum)で、後半要素の-inが指小辞の中高独-īnと解釈され、別の指小辞
である中高独-elに入れ替えてkümel,kumelという語形が派生した。
[Gottschald(1982)p.311,Kohlheim(2000)p.403,Bahlow(2002)p.290,Naumann(2007)p.174,ONC(2002)p.358,Feinig(2004)p.138,Nied(1933)
p.85,Linnartz(1936)p.81,Guggenheimer(1992)p.403]
②地名姓。極めて稀で、古い確実な用例も確認できない。以下の同名の地名より。
●ドイツ中部バイエルン州オーバーバイエルン行政区域、リヒテンフェルス(Lichtenfels)郡エーベンスフェルト(Ebensfeld)村の地名
(68Ma48)
cum Clucowa et Chumele et Durnowa(1137年)5, 6
スラヴ語起源の地名でchumel「嵐、びゅうびゅう吹く風」に由来するという6。この単語はチェコ語の
chumel「嵐」7(cf.チェコchumelenice「吹雪」8)のことであろう。初出形の
前後に見えるClucowa(現クロイクハイム(Kleukheim)に相当)とDurnowaもスラヴ語起源の名前で、物主形容詞形成語尾-owaが見えることから
いずれも人名に因む地名である可能性が高い。Kümmelの古形Chumeleの語尾-eはスラヴ語の複数形語尾と考えられる。スラヴ語の地名は、
個人名に複数形語尾を接続して地名を作ることも多く、このKümmelという地名の場合、「*Chumel(人名)一族の地」という原義を持つと
解釈することも可能である。人名*Chumelが実在したか確認できないが、チェコchumel「嵐」と同語源の名前と見られる。
●ドイツ西部ノルトライン=ヴェストファーレン州ケルン行政区域、オーバーベルギッシュ郡(Oberbergischer Kreis)マリーエンハイデ
(Marienheide)町の地名
マリーエンハイデの詳細な歴史を扱ったサイト9にも、地名の古形が記載されていないので、最近出現した
地名かもしれない。よって、語源も不明。
[Kohlheim(2000)p.403,Naumann(2007)p.174]
Heinrich Kummelt(1536年Oberpfalz:ルター派宣教師)10
③父称姓。古いドイツ人男名クニパルド(Chunipald)11、クニボルド(Chunibold)11
より。男名は古高独kuoni「勇敢な」12と古高独bald「勇敢な」13よりなる。
後に第二音節の母音が弱化消失し、[n]と[p/b]が接触したことで同化しあい-mm-に転じた。
[Heintze et Cascorbi(1925)p.202]
◆中高独kumin,kümel←古高独kumil,kumin←後ラcumīnum(古英cymen(>英cum(m)in),オランダkomijn,デンマークkommen,スウェーデンkummin,(古)仏cumin,
伊cumino,西comino,ルーマニアchimion,ポーランドkmin,チェコkmín,スロヴェニアk(u)mȋn,古露kimenŭ(>露tmin))←ギkúmīnom(借入)
←セム祖語*k-m-n「ヒメウイキョウ」(アッカドkam(m)ūnu,アラムkammonā,ヘブライkammōn(ōはアクサン・テギュ),アラビアkammūn)。
シュメールgamun「ヒメウイキョウ」も同語源。
◆チェコchumel「嵐」←chomáč「束、房(tuft, wisp)」←スラヴ*komŭ(o語幹男性名詞)(露kom「塊」,ウクライナkim「塊」,セルボ=クロアティア
kо̏m「搾りかす、沈殿物」,ブルガリアkómina「葡萄の搾りかす」,チェコkominy「葡萄の搾りかす」)←PIE*kom-o-(ラトヴィアkams「塊」,kamõls
「糸玉、毛糸玉」,リトアニアkamuolỹs「糸玉、毛糸玉」)(o階梯+テーマ母音)←*kem-「圧力を加える(to press)」15。
ハンブルク(Hamburg)のHam-と同根。チェコchomáč「束、房」からchumel「嵐」までの形義の変化が今一説明不能な点があると思うのだが・・・。
ホルプとコペチュニーのチェコ語語源辞典にそう書いてあるので、これに従う。
1 Heinrich Beyer "Urkundenbuch zur Geschichte der, jetzt die Preussischen Regierungsbezirke Coblenz
Und Trier Bildenden Mittelrheinischen Territorien."vol.2(1865)p.264
2 Ondrusch(1894)p.71
3 "Quellen und Forschungen zur Geschichte des Bistums und Hochstifts Würzburg."vol.18(1966)p.406
4 Lexer vol.1(1872)sp.1769
5 Historischer Verein für Oberfranken "Archiv für Geschichte von Oberfranken."vol.53(1973)p.71
6 Historischer Verein für Oberfranken "Archiv für Geschichte von Oberfranken."vol.31(1930)p.38
7 Tham(1788)p.557
8 http://en.wiktionary.org/wiki/chumelenice
9 http://www.mehrgenerationenhaus.de/umgebung.9.html
10 Michael Laßleben "Die Oberpfalz."vol.46(1958)p.143
11 Förstemann(1966)sp.312
12 Köbler ahdW K項p.85
13 Köbler ahdW B項p.5
14 英語語源辞典p.307、http://en.wiktionary.org/wiki/cumin、Vasmer(1953-1958)vol.4 p.65
15 Pokorny(1959)p.555、Vasmer(1953-1958)vol.2 p.300、Holub et Kopečný(1952)p.141
執筆記録:
2011年6月22日 初稿アップ
PIE語根①Kümm-el:1.セム祖語*k-m-n「ヒメウイキョウ」;2.*-lo-指小辞
②Kümm-el:1.*kem-「圧力を加える」;2.*-lo-指小辞
③Küm-mel:1.*gnō-「知る」;2.*bhel-2「(風が)吹く、膨らむ」
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