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Erfurt(h) エアフルト
概要
「*Erpesa川(「暗褐色の川」の意)の浅瀬を意味する地名エアフルト(Erfurt)に由来。
詳細
Bertoldus de Erfort(1287年Breslau)1
Heidenrico de Erford(1312年Nordhausen)2
Petrus de Erforde(1374年Lübeck)3
Hans de Erforte(1390年頃Braunschweig)4

地名姓。テューリンゲン州キュフホイサー(Kyffhäuser)郡に集住。ドイツ中部テューリンゲン州、テューリンゲン 盆地南部の都市エアフルト(Erfurt:56Ma43)の名に因む。当市に司教座が置かれた742年が地名の初出年であり、 ボニファティウスの手紙(Bonifatius Epistolae)という書簡に記録されている。以下に地名の歴史上の変遷を示す。
nominatur Erphesfurt(742年)5
Erpfesfurt(743年)5
Erfesfurt(802年)5
Erpesfurt(805年)5
Erpfersfurt(932年)5
Erfasfurt(973年)5
Erphort(1233年)6
Erforthe(1289年)7
Erfforte(1371年)8

本来は恐らく「*Erfesa(<*Erpesa)川の渡河地点(浅瀬)」を意味した付近のある場所の名前を、転用したのが起源と見る説が有力 9(古高独furt「(歩いて渡れる)川の浅瀬」)。このエルフェサ(*Erfesa)という河川名はゲーラ河の古名か、 もしくはその一流域の名前であったと推測されている。その語源は古高独erpf,erph「暗褐色の」10で、 この川の水の色を形容して付けられたものである。エルフルト近郊のアプフェルシュテット(Apfelstädt)に向かって 流れるある川は、その上流のゲオルゲンタール(Georgenthal)では、エルフ(Erff)川 11と呼ばれており、同じ語源の名である。
かつては、第一要素Erf-を個人名とみる説があったが12、Erf-の綴りだと 短縮名や愛称名しか考えられず、その場合は属格語尾は基本的に弱変化の-enで現れる筈だが、この地名の場合 強変化タイプの-esで現れており、かなりイレギュラーな例となる。現在この説が支持されていない理由は、 ここに有ると思われる。
又、日本で出版されている世界の地名の語源を扱った本では、「鴨の渡る浅瀬」の意だと書いてあるものがある 13。根拠が書かれていない為、 詳しい理由は不明だが、恐らく中低独erpel「雄鴨」14(>独Erpel)から類推した解釈ではないかと 思われる。これは誤りで あり、中低独erpelは古い記録の無い語で、最速でも中低独期の始まりと設定される1100年よりも遥か以前に、 地名Erfurtが発生してる点、指小辞の-elが地名の古形には見当たらない点から、容易には受け入れ難い。 現に欧米の出版物やネットでは全くお目にかかれない説である。私見だが日本人の誰かが、独和辞典を引いて 綴りの近い独Erpel「雄鴨」にこじつけたのではないかと思う(この説の所見は確認していない)。
尚余談であるが本姓・地名の第一要素Erf-と、世界最高峰の山名にもなった 英国の姓エヴェレスト(Everest)の第一要素Ever-は、共に印欧祖語の語根*ērebh-「赤い、茶色の」 15に遡る同根語である。
[Gottschald(1982)p.174,Kohlheim(2000)p.223,Bahlow(2002)p.107,Naumann(2007)p.299]
◆古高独erpf,erph「暗褐色の」←ゲルマン*erpaz「暗い、茶色の、暗褐色の」(古英eorp,earp「暗い色の」,古ノルドjarpr 「暗褐色の」)←PIE*ērebh-「赤い、茶色の」(ギorphnós「暗い」,古アイルランドibar「イチイ」,リトアニアíerbë「エゾライチョウ (hazel grouse)」,チェコjeřáb「ナナカマドの実(rowan berry)」)50。独Erpel「雄鴨」(←中低独 erpel)もこの語根から発生した語。
◆独Furt「浅瀬」←中高独vurt←古高独furt←ゲルマン*furduz(u語幹男性名詞)「(歩いて渡れる)川の浅瀬」((古)英ford,古フリジア forda「浅瀬、渡河、堤防、橋」,古ザクセンford,furd「浅瀬」,オランダvoorde)←PIE*p- tu-「通過」(ラportus「港(原義「通過」)」,ウェールズrhyd「浅瀬」,ノルウェーfiord「フィヨル ド」,アヴェスタpərətu-「浅瀬、橋」)(ゼロ階梯+抽象名詞形成接尾辞)←*per-「導く、渡る」(ギpeirein「貫通する」)。 アヴェスタhupərətuuna-「渡るのに良い」の第二要素にもアヴェスタpərətu-「浅瀬」が見えるが (第一要素はPIE*(e)su-「良い」:cf.オイゲン(Eugen))、この語に由来する河川名がギリシア語に借入されEuphrātēs「 ユーフラテス河」となった。 
1 Bahlow(1953)p.33
2 Ernst Günther Foerstemann"Kleine Schriften zur Geschichte der Stadt Nordhausen"(1855)p.64
3 Simon(2006)p.273
4 Hänselmann et. al.(2003)p.1005
5 Thomas L. Zotz "Die deutschen Königspfalzen"vol.2(1984)p.103
6 Historische Kommission für die Provinz Sachsen und für Anhalt "Geschichtsquellen der Provinz Sachsen und des Freistaates Anhalt"(1926)p.124
7 Ludwig Franz Hoefer"Auswahl der ältesten Urkunden deutscher Sprache im Königl. geheimen Staats- und Kabinet-archiv zu Berlin"(1835)p.39
8 Johannes Rothe,Sylvia Weigelt"Thüringische Landeschronik ; und: Eisenacher Chronik" (2007)p.130
9 Weisser(1974)p.89f.、Eichler et Berger(1986)p.91f.、Gottschald(1982)p.174等
10 Köbler ahd.W. E項 p.55
11 河川名の初出はErpha(1154年)である(Eichler et Walther(1986)p.92)。
12 上掲ツォッツ(Zotz)の書のp.103にFörstemann-Jellinghaus著の"Ortsnamen"という 本のp.203にその説が載っているとある(筆者は未見。フェルステマンは人名研究で、イェリングハウスは地名研究で 有名な学者)。また私が高校時代に、ある地名語源辞典(残念ながら書名を記録する事をしなかったので不明。 確かコンサイスのシリーズだった様な気がする)の記事を引用したメモによると、エアフルトの意味は「エルプフの浅瀬」で あるとしている。これも第一要素を人名起源とする説を引用したものであろう。
13 この解釈は辻原康夫『世界の地名ハンドブック』(1995、三省堂)に見える (同じく私が高校時代に引用したメモを仲介しているので、ページ数が不明)。 この本は残念ながら語源記述に誤りが多く(この著者の他の著作でも言えることだが)、この説も鵜呑みにはできない。
14 Drosdowski(1989)p.162
15 Pokorny(1959)p.334
16 Köbler idg.W. E項p.36、Pokorny(1959)p.334
17 英語語源辞典p.528、Watkins(2000)p.66、Pokorny(1959)p.816、Buck(1949)p.738、 Köbler idgW P項p.83
PIE語根Er-fur-t:1.*ērebh-「赤い、茶色の」;2.*per-2「導く、渡る」; 3.*-tu-抽象名詞形成語尾

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