戻る/ はじめに/ 苗字苑本館/ ハリポタ語源辞典/ 銀英伝語源辞典/ 付録/ リンク集
苗字リストに戻る
Carnap、Karnap カルナップ
概要
中低独karnap「(建物などの)拡張部、突出部、出窓」に由来する居住地姓、屋号姓、地名姓。
詳細
Markward Karnap(1340年Kiel)1
Heyne zu Carnap(1466年Beyenburg(ヴッパータール))2

居住地姓、屋号姓、地名姓。Karnapはラインラント=プファルツ州トリーア市とトリーア=ザールブルク(Saarburg)郡に多く、Carnapは 同州ヴルカンアイフェル(Vulkaneifel)郡に多い。異形にカルノップ(Karnop(p))姓がある。ポーランドに借入されてカルナプカ(Karnapka) というポーランド姓が派生している3。中低独karnap「(建物などの)拡張部(Ausbau)、突出部(Vorsprung)、 出窓(Erker)」1, 4, 5(>独≪北部方言≫karnap)に由来し、「拡張した地所の住人、飛び出た場所の住人」を 表すと思われる。或いは「出窓」の意がある事から、「出窓が特徴的な家屋の住人」を表す姓。又以下の同語源の地名に由来する。

●ドイツ西部ノルトライン=ヴェストファーレン州デュッセルドルフ行政共同体、エッセン(Essen)市内北部の区域カルナップ (Karnap(39Ha39))
Carnappe(1302年)6
Carnape(1332年)6
Karnap(1349年)7
Carneppe(1355/1450年)7
Carnappe(1361年)7
Karneppe(15世紀)8

最後の-eは与格語尾と見られる為、約700年も前から地名が殆ど変わってない事が判る。デルクス(Paul Derks)によれば、地名の原義を「泥が 流れる川」とする説を挙げ、すぐ南に流れるエムシャー川(Emscher)の特徴を示したものと指摘している6。 但しこの説は第一要素を「ぬかるみ、泥」の様な意味に解して初めて成立するが、その様な語形・意味の単語は確認が取れない。 一方あるサイトに引用する、オスカル・グリム(Oscar Grimm)の著書『Carnap vergangenen Tage』(1910)には次のような説明がなされて いるらしい。地名はCarnとapの合成語で、第二要素は「水、川」を意味するapaに由来する。apaは古くは河川名の命名に使われた(PIE*ap- 「水」を想定した説)。第一要素Carn-はケルト以前のリグリア語9のCara「石」に由来し、すなわち「石川」を意味する 10。Cara「石」というリグリア語の単語は確認出来ないが、形義共に酷似するゲール,古アイルランド,ウェールズ carn「積まれた石」11(<PIE*kar-「固い」:cogn.英hard)を意識しての事と思われる。又同サイトは、地名研究家の イメ(Imme)博士なる人物の説として、第一要素は古いドイツ語で「製粉装置、碾き臼」を意味する古高独quirn12 (>中高独kürn12,kurn12>独(方言)Kirn(e)「製粉用の碾き臼」)の派生語に由来する とする。第二要素は上記同様「川」で、合わせて「製粉装置のある川」の意とする10

これらの三つの説は、後半要素-ap(e)を印欧祖語の*ap-「水」に遡らせている点が共通している。然し、14世紀初頭からしか記録の無い 歴史的に新しい地名に、この様な古代語で解釈すること自体に問題がある。私には、いずれも誤りとしか思えない。やはり、中低独karnap 「(建物などの)拡張、突出部」に由来すると見るのが自然である。以前はこの町の綴りはCarnap、Karnapの二通りがあり、1910年になって ようやく公用的にKarnapの綴りに定められた。又、更に以下の同語源の地名に由来する可能性がある。

●Karnap(シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州/シュトルマーン(Stolmarn)郡/トリッタウ(Trittau)町)

●Karnap(ノルトライン=ヴェストファーレン州/デュッセルドルフ行政共同体/メットマン(Mettmann)郡/ヒルデン(Hilden)市)

●Karnap(ノルトライン=ヴェストファーレン州/デュッセルドルフ行政共同体/ヴッパータール市/ハッツフェルト(Hatzfeld))Carnapとも綴る (独WikipediaはCarnapで立項)

●Karnapp(ハンブルク市/ハルブルク(Harburg)区)

●Karnappe(15世紀)(ニーダーザクセン州/フェヒタ(Vechta)郡/ダメ(Damme)町/シュタインフェルト(Steinfeld))相続地産の名前 7
喪失地名。この地名は同時期の記録にde molen to Kadernappe(15世紀)という形で現れている13。 Kadernappeという綴りは、Karnapという綴りが母音間で-d-が消失する低地ドイツ語訛りを反映した綴りと誤解され、過剰修正 (hypercorrection)されたものかもしれない。

又、バーローによればラウエンブルク(Lauenburg(シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州南部))市の付近にある森の名前としてKarnapを挙げて いる14。独WikipediaのCarnap項では、ドイツの固有名詞研究家・方言学者のディットマイアー(Heinrich Dittmaier)の説を挙げて、「出窓の目立つ家が建っていた場所」、或いは「拡張地帯、出っ張った場所」の意としている 15。因みに、ドイツ出身の米国の有名な哲学者ルードルフ・カルナップ(Rudolf Carnap)は先祖代々住み続けていたヴッパータールのロンスドルフ (Ronsdorf)という町の出身である。
[Gottschald(1982)p.140,Kohlheim(2000)p.165,Bahlow(2002)p.259,(1982)p.49,Naumann(2007)p.301]
◆中低独karnap「(建物などの)拡張部、突出部、出窓」(デンマークkarnap「出窓」は低独からの借用)←中ラcanapēum,canopēum「蚊帳」(中英 canap(i)e,canope,kanape「天蓋」(初出1384年)(>英canopy「天蓋、 キャノピー」),古仏conopé「寝台の垂れ幕」(初出1553年)(>仏canapé「背もたれのある長椅子、ソファー」))←ラcōnōpēum,cōnōpium「蚊帳」←ギkōnōpeîon「エジプトの 蚊帳付きベッド」←knōp(o)s「蚊、アカイエカ」←?16。語源不明。中ラcanapēumから中低独karnapへの転訛で、 -r-が挿入された理由は不詳。様々な説が出されている。先ず、シャントレヌとボワザックの 両ギリシア語語源辞典にはウォートン(Edward Ross Wharton)の提唱する、knōp(o)s「蚊」の原義を「飛び出た目」とする 解釈を挙げ、有り得ないとしている。ギknos「松かさ」とギps「目」 (cf.英cyclops「サイクロプス(原義「丸目」)」)の合成語と見るもので、ギknos「松かさ」はPIE*kō- 「鋭くする」から派生し原義が「鋭く尖ったもの」と想定されているから、この様にウォートンは考えたのだろう。
又、両辞典はギknōp(o)s「蚊」はエジプトḫnms「蚊」17の借用とする説を 挙げる。このエジプト語から、最初にギリシア語に*knōpsという形で借用され、後にギknos「松かさ」 との類推によってknōp(o)sという形に転じたとする。
又、ギkōnōpeîon「エジプトの蚊帳付きベッド」は、エジプトのナイル川西河口に位置するカノーポス (Kánōpos)という町の名に因むとする説も有る。いずれの説も、憶測の域を出ない。
1 Bahlow(1982)p.49
2 http://de.wikipedia.org/wiki/Carnap_(Adelsgeschlecht)
3 ポーランドにもKarnap、Karnopという姓が存在し、Karnapka姓はその派生形である(Rospond(1967)p.263)。 但し、ロスポントはこれらの姓をスラヴ*knŭ「丸い;手足の不自由な人(okrągły; kaleki)」に由来すると 見ている。この解釈を採ると-ap、-opという語尾の説明が難しくなる。私は、低地ドイツ語のKarnap姓が、他の多くのドイツ姓と同じく、 ポーランドに根付いたと考えるほうが自然だと思う。
4 Lübben(1888)p.168
5 NSOB vol.1 p.82
6 http://essen.de/de/Rathaus/Aemter/Ordner_41/Stadtarchiv/geschichte/Geschichte_Namensdeutung.html
7 "Jahrbuch des Vereins für niederdeutsche Sprachforschung. " vol.74-79(1951)p.57
8 Jellinghaus(1923)p.147
9 リグリア語(英Ligurian,独ligurisch,仏ligure)。紀元前500年頃南仏や北アフリカで使用されてたという 印欧語の一つ。話し手のリグリア人はガリア地方南東部、現在のマルセイユからリビエラ海岸付近に居住した古代民族。前三世紀頃ローマ の征服により居住地は縮小した(小学館『ロベール仏和大辞典』)。 
10 http://www.karnap-online.de/17601.html
11 英語語源辞典p.184
12 Köbler ahdW K項p.99
13 Wolfgang Bockhorst "Geschichte des Niederstifts Münster bis 1400"(1985)p.205
14 Bahlow(2002)p.259
15 http://de.wikipedia.org/wiki/Carnap_(Wuppertal)
16 英語語源辞典p.192、ロベール仏和大辞典p.360、Boisacq(1916)p.545、Chantraine(1968-80)p.607、 "Jahrbuch des Vereins für niederdeutsche Sprachforschung. " vol.74-79(1951)p.59
17 http://www.fitzmuseum.cam.ac.uk/er/beinlich/bsearch.php?term=xnms&german=&ref=&logic=and&sort=word&S=Submit

執筆記録:
2011年6月22日  初稿アップ
PIE語根Carnap:1.語根不詳

戻る

Copyright(C)2010~ Malpicos, All rights reserved.